★あらすじ 河内の国、高安の里の「強欲五右衛門」と異名を取る我利我利亡者の五右衛門。ある年、大洪水があって川上からいろんな物が流れて来た。
五右衛門は岸から手鉤で、流れて来るものを手当たり次第に土手に引っ張り上げている。少しでも金になりそうなものは手元に置き、あとはみんな川に流してしまう。
すると大きな葛籠(つづら)が流れて来た。これはいい物が流れて来たと引き上げて蓋を開けると、中には布団を敷いたお婆さんがぽつんと座っていた。
五右衛門 「なんじゃい、こんな婆さん。こんなん引き上げたら飯食わさんならん」と、蓋をしてまた流してしまった。
そばで見ていたのが人が良くてやさしい、仏の又一、「こら!なんちゅうことをするねん。中には生きた人間が入ってんのやないか」
五右衛門 「金にならん物は拾わんのじゃ」
又一は葛籠を引き上げて、すっかり衰弱したお婆さんを自分の家に連れて帰って、介抱し面倒を見る。ようやくお婆さんも元気になった頃、川上の村から、お婆さんの息子と言う人が訪ねて来る。これが高安五郷の大庄屋家という家だ。
息子 「・・・噂に聞いて参りましたんですが、先日の大洪水の時に、葛籠の中に入って流れて来た年寄りを、こちらさんで助けて養うてくださっているそうな。それはうちの母親ではないかと・・・」ということで、お婆さんと息子さんは無事に対面。
息子 「あの時はとっさの事で一緒に逃げることも出来ず、母親を葛籠の中に布団を敷いて入れて川へ流しました。あんさんみたいなお方に拾うて助けていただいて、有難うございました」と、お礼に五十両の金を置いて母親を連れて帰って行った。
すぐにこの話は村中に広まって、やって来たのが強欲五右衛門、「その金をよこせ。葛籠を引き上げたのはわしやさかいに婆さんは助かったんじゃ。
又一 「そやけど、お前はまた川へ流したやないか」
五右衛門 「わしが初めに葛籠を引き上げなんだら婆さんが中にいることが分らんのやさかい、半分よこせ」と、強引な言いようで収まりそうもない。仕方なく二人の間に村の庄屋が仲裁に入った。
庄屋 「川の中から葛籠を拾うた事が喧嘩の始まりやさかいに、もう一ぺんわしがこの金を川へ放り込む。お前ら二人、川へ飛び込んで拾いなはれ」、五右衛門は文句があるはずもないが、
又一 「わてはそないしてまで金なんかいらんよって・・・」と、逃げ腰なのを、
庄屋 「まあまあ、そう言わんとここはわしにまかせてくれ」と連れて行く。
川はまだ洪水の余波で水かさが多く、流れも早く、川上からはいろんな物が流れて来る。
庄屋は「えいっ!」っと、川の中に金の包みを放り込んだ。五右衛門は待ってましたとばかりにフライング気味に飛び込んだ。
又一 「よう、こんなとこに飛び込むわ」と、呆れて見ていると、
庄屋 「お前は飛び込まんでもええで、金はここにある。包みの中は石ころじゃ。五右衛門は上から流れて来る材木かなんかに当たって死んでしまうだろう」
村人たちはどうなることかと見ていると、川上から葛屋ぶきの小屋が流れて来て、五右衛門の背中にドーンと当たった。みんなのワーッという歓声やら笑い声が聞こえて、
五右衛門 「五右衛門が葛屋負うたが、おかしいか」
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