★あらすじ 長屋にある一軒の空き家を長屋の連中は物置代わりに使っているが、家主がここは物置じゃないと文句を言い出し、いつ借り手がついて置いてある物を運び出させられるかも知れない。長屋の連中は何とか今までどおりに物置として使える算段はないものかと、古狸の杢兵衛(もくべえ)さんに相談に行く。
杢兵衛は一計を案じて、借り手が訪ねてきたら、家主は遠方に住んでいるので自分が長屋の差配をまかされているといって杢兵衛の家へ来させて、借り手をおどして空き家に借り手がつくのを防ごうという算段だ。
早速、借り手の男が杢兵衛のところへ来る。杢兵衛は怪談じみた話を始める。3年程前に空き家に住んでいた美人の後家さんのところへ泥棒が入り、あいくちで刺され後家さんは殺された。空き家はすぐに借り手がつくが、皆すぐに出て行ってしまうという。後家さんの幽霊が出るというのだ。
借り手の男が恐がりなのを見透かした杢兵衛は、身振り手振りを加え怪談話をする。恐がってもうわかったから止めてくれという男の顔を、幽霊の冷たい手が撫でるように濡れ雑巾で撫でると大声を出して飛び出して行ってしまった。大成功だ。男の坐っていたところを見るとがま口が忘れてある。とんだ大儲けだ。
次に来たのが威勢のいい職人風の男だ。前の男を恐がらせて追い返した杢兵衛さん、自信たっぷりで怪談話を始めるが、こんどの男は一向に恐がらず、話の間にちょっかいを入れる始末だ。
困った杢兵衛さん、最後に濡れ雑巾で男の顔をひと撫でしようとすると、男に雑巾をぶん取られ、逆に顔中を叩かれこすられてしまう。男はすぐに引越して来るから掃除をしておけと言い残して帰ってしまう。
そこへ長屋の源さんが様子を聞きに来る。
杢兵衛 「あいつはだめだ、全然恐がらねえ、家賃なんかいらないって言ってしまったからお前と二人で出そう」
源さん 「冗談じゃねえ、がま口かなんか、置いて行かなかったのか」
杢兵衛(あたりを探して) 「あっ、さっきのがま口持って行っちゃった、あの野郎」
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