★あらすじ 日本橋田所町三丁目、日向屋半兵衛のせがれ時次郎。晩熟(おくて)なのか女嫌いなのか品行方正で堅過ぎる真面目男。今日もお稲荷さまの参詣で赤飯を三杯ごちそうになり、子どもたちと太鼓を叩いて遊んで来たと、おやじの半兵衛に得意げに報告する。まさに色気より食い気で、おやじは跡継ぎとしてこれからの世間付き合いができるだろうかと、道楽息子を持つ親よりも心配だ。
そこで、町内の札付きの遊び人の源兵衛と太助を引率者・指南役として、時次郎に吉原で遊びの実地授業を受けさせることにした。本人にはお稲荷さまのお籠りと偽り、お賽銭が少ないとご利益(りやく)が少ないから、向こうへ着いたらお巫女(みこ)さん方へのご祝儀はおまえが全部払ってしまえと忠告し送り出した。
大門をくぐって吉原遊郭へ入った時次郎、お茶屋まではよかったが、大見世に入れば遊女たちが廊下を草履でパタパタと歩いている。いくら初心(うぶ)でも、ここがどこで、何をする所くらいは書物で知っている。
お稲荷さまとだましてこんな悪所へ連れて来られたと泣いて騒ぎ出し、子どもみたいに帰るとごね出した。源兵衛と太助は大門を三人で入ったのに、一人で出て行くと怪しいやつ思われて会所で留められ、縛られてしまうとおどして、やっと部屋に上がらせる。
時次郎だけ座敷の隅で、そっぽを向いてうつむいている。芸者連が来て賑やかな酒の座敷のはずが、お通夜みたいな空間になってしまった。こともあろうに、時次郎は「女郎なんか買うと瘡をかく」なんて場所柄をわきまえない禁句まで口走る始末で、どっちらけだ。
早いことお引けと、いやがる時次郎を敵娼(あいかた)の待つ部屋へ引きずり押し込む。時次郎の敵娼は十八になる浦里という絶世の美女。色男で初心な時次郎に惚れたのか、いつもと違う珍しい客が気に入ったのかその夜はサービス満点。むろん石部金吉、木石ならぬ時次郎もすっかりメロメロ、トロトロ、グニャグニャになって、お稲荷さんなんかはどうでもよくなった。
烏、カァで夜が明けて、「振られた者の起し番」で敵娼に振られた源兵衛と太助はぶつぶつ言い、甘納豆をやけ食いしながら、時次郎を起しに来た。
「けっこうな、お籠りで・・・・」なんて時次郎はしゃあしゃあしている。
源兵衛 「そろそろ帰るから、早く起きてください」
浦里 「若旦那、早く起きなんし」
時次郎 「花魁は、口では起きろ起きろと言いますが、足であたしの体(からだ)をぐっと押さえて・・・・」とノロケまで飛び出すほどの遊びの上達ぶりだ。
頭に来た太助、「じゃ、おまえさんは暇な体、ゆっくり遊んでらっしゃい。あたしたちは先に帰りますから」
時次郎 「あなた方、先へ帰れるものなら帰ってごらんなさい。大門で留められるから」
|