「按摩の炬燵」


 
あらすじ 冷たい冬の空っ風が吹く夜。店の小僧たちは寒くて寝られないと、番頭に願い出る、「・・・昨晩なんて店の者一同まんじりともいたしませんで・・・布団が薄過ぎますので、・・・大勢の中へ五、六枚でも増やしていただきたいんで・・・」、番頭「おまえさんたちは奉公を何と心得ている。・・・そのくらいのことが辛抱出来なくて奉公先はつとまりゃしないよ」と、つれない返事。

小僧 「・・・番頭さん、煎餅布団ってえのはよくありますが、この店のは抜きの煎布団で・・・」、怒って説教したものの番頭も小僧たちと同じような布団で寝ているので、ここ二、三日の寒さは身にしみている。

 番頭は何か布団の代わりの寒さ対策はないものかと考えて、一計を思いついた。奥に来ている酒好きな按摩の米市にたっぷりと酒を飲ませて店に泊まらせ、米市の酔って暖かくなった体を炬燵(こたつ)代わりにして寝るという算段だ。絶対に火事になる心配はない安全安心炬燵だ。

 番頭は奥での揉み療治が終わった米市を引き留め、今日は泊まって人間炬燵になってくれと頼む。「・・・炬燵?」と訝(いぶか)しがり、ためらっていた米市だが、酒は飲めるし、久しぶりに店の小僧たちとも話ができると、
米市 「・・・へえへえ、よろしゅうございます。・・・断っておきますが、酒は一合、二合では消し炭ぐらいで・・・」

番頭 「何だい、消し炭ってえのは?」

米市 「へえ、消し炭はすぐつくけど、すぐに消えちまいますから炬燵にはなりゃしません。せめて五合なら炭団の二つ、三つ、一升なら備長ってところまで・・・」

番頭 「それじゃ、中を取って五合で、それで炬燵になっとくれ」、交渉成立で米市さんは番頭を前にして酒を美味そうに飲み始めた。話好きな米市は身の上話などをべらべらと話し続けて行く。

 約束の五合をたいらげた米市「へえ、それではお先にご免・・・・」と、布団の敷いてある部屋へ行って長々と横になってしまった。番頭に「それじゃ、炬燵にならない・・・」と言われ、布団の中に丸くなって臥(ふ)せった。

 そのうちに店を終わった小僧たちがやって来て、大勢の冷たい足が入って来た。番頭も炬燵のあんばいはどんなものかと今晩は一緒だ。小僧たちはお喋りをしながら足を動かすので、あちこちに当たってその痛いこと。

 すぐに昼間の疲れからか小僧たちは寝入ってしまった。米市は「ああ、疲れ切っているんだねえ。綿のごとくってやつだ。・・・奉公ってもんはつらいもんだ。・・・あたしなんか貧乏したって家に帰れば一軒のあるじだ。・・・」、

 米市が、炬燵になって少しは奉公人たちの役に立ってよかったなんて思っていると、今度は歯ぎしりやら寝言やらが聞こえて来た。中には寝ながらおならをするやつもいる。

小僧 「合羽屋の小僧、よくもさっきぶちやがったな・・・」と、ぶたれ返されそうなのはよかったが、

定吉 「・・・もう我慢ができないからこのドブにしちゃおう・・・」

米市 「??、おい変な寝言を言ったねぇ、・・・あああ、冷てえ、冷てえ・・・」

番頭 「・・・これ定吉、おまえたちが寒くて寝られないって言うから、米市さんに炬燵になってもらったのに、寝小便をするやつがありますか。・・・米市さん勘弁してください。おまえのおかげでやっと暖まってやれやれと思ったら、小僧のせいでまた冷たくなっちまった。今、布団をすっかり取り替えるから、もう一ぺん炬燵になっとくれ」

米市 「いいえ、もう炬燵はだめでござんす。小僧さんがこのとおり、火を消してしまいました」


   
        


桂文楽(八代目)の『按摩の炬燵【YouTube】





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