★あらすじ 今日は夏の盛りの新町の太夫道中の日。堂島の米相場師(ジキ)からも随分と金が出ている。
新町橋を渡って見物人でごった返している道を逆らうように、堂島の連中が四、五人、新町九軒町の吉田屋の座敷に上がった。馴染みの芸妓連、幇間が入って来る、酒、肴が運ばれて来る。
堂島の客(ジキ )「お仲、栴檀(せんだん)太夫を呼んでんか」
お仲 「なにを言うたはりまんのや。今日は太夫道中だっしゃないかい」
ジキ 「へえ、今日、道中か」
お仲 「ご存じないことあらしまへんやないかいな。栴檀さん船弁慶の知盛の扮装、見事に出来上がりまして・・・」
ジキ 「おい、近江屋、常やん、今日、道中やて、聞いてるか」、「知らんな」
ジキ 「馴染みの客が来て呼べちゅうのに呼べんのなら、去(い)のか」
お仲 「そんな・・・今、道中の最中・・・ちょっと、待っておくなはれ」と、困ったお仲は先輩の同僚のお富のところへ行き、顛末を話す。お富はすぐに座敷へ行くと連中は帰りかけている。
ジキ 「おい、お富、わしが言うことが無理か・・・その道中やら知盛の金はどっから出てるねん」、道中している栴檀太夫を連れて来るのも無理な話だが、一番大事な堂島の客を怒らせたまま帰らせてしまうのは、吉田屋、新町の一大事。迷いに迷って、
お富 「まあ、お座りを。栴檀さん連れて来ます」
ジキ 「道中の最中やそうやないかい。番所からお役人も出張(でば)ってはんのやろ」
お富 「へえ、吉田屋のお富だっせ。呼んで来るちゅうたら、必ず呼んできま」と、表へ飛び出しすごい形相で見物人をかき分けかき分け、行列を目指す。
お富 「新町の一大事や。ちょっと、行列、止めておくなはれ」
道中の世話人 「無茶言いないな。行列の最中に・・・」
お富 「・・・堂島のやんちゃら、道中なんて聞いちゃおらん、知らんちゅうて・・・あんたら堂島へは挨拶に行かはりましたんやろな」、世話役たちは顔を見合わせるが誰も挨拶に行った者はなく、互いに責任を押しつけ合うお粗末ぶり。
堂島の連中がすねて、見放されたら吉田屋も新町はつぶれてしまう。どうしよう、どうしようと、ただうろたえる世話役たちに、番所のお役人たちをその辺の茶屋へ放り込ませ、人垣で栴檀を取り囲ませてお富さんは先頭に立って吉田屋に戻って来た。
お富 「太夫さんをお連れしました」
ジキ 「おっ、お富、ようやりおったな。・・・栴檀、何枚着てんのや、えっ、八枚か。汗一つかいてないやないか。いやー恐れ入った。栴檀への心中立てじゃ。皆、冬の着物に着替えい」、ジキの一声、さあ、大変、みんな冬物の着物に着替えさせられ、冬の遊びが始まった。
そこへ飛び込んできたのが幇間の一八。
ジキ 「おまえは向こ先の見えん芸人やな、みな冬装束着てんのに、お前、蝉の羽みたいなもん着やがって・・・今日限りひいきにせんわ、去(い)ね!」、しくじった一八は帳場へ泣きつく。帳場の頭は箪笥を開け、冬物を総ざらい、どんどん一八に着せて帯でぐるぐる巻きにして、さらに祝儀になる工夫を伝授する。
着ぶくれで歩行も困難な一八は帳場の連中に運ばれて、座敷へ再登場。
一八 「旦那、先程は・・・、へえ厳しい寒さでんな。新町中、つららが五寸ほど下がっとりまんねん・・・こんな寒い中、すだれはやめて唐紙入れ替えて、宣徳の火鉢持ち込みなはれ。冷や奴やすずきの洗いなもんではあかん。グラグラっと煮えた鍋にひまひょ。熱い雑炊に茶碗蒸し・・・まだまだ寒いさかい懐炉(かいろ)を三つづつ・・・」と、帳場で教わったとおりにたたみかけて行く。帳場からもどんどんと言われたものが運ばれて来る。
ジキ 「・・・まあ、もう、お前祝儀もんじゃ。どや一八、その格好で一つ踊れ」、芸妓に「何か冬らしいもの弾きい」
芸妓 「ほな、♪御所のお庭♪でも」で、踊り始めた一八だが、
ジキ 「ははは、見てみい、一八のやつ手が動かへんがな。あまりの寒さで手がかじかんどるのや。そこの懐炉五つほど入れたれ」、みんな面白がって懐炉をあちこちに押し込んだ。
さすがの一八も「助けとおくなはれ!」、慌てて着物をはぎ取り、庭へダッシュして井戸の水を頭からザブーッ、ザブーッ。
ジキ 「おい、一八、何じゃいそのざまは」
一八 「へい、寒行の真似をしとります」
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