「有馬小便」

 
あらすじ 何の仕事をしても長続きせずぶらぶらしているに、横丁の甚兵衛さんがいい仕事があると教える。

甚兵衛 「有馬温泉は土地柄、旅館が道から低く作られている。便所も二階から一階へ下りて行かなならんで面倒だ。そこでじゃ、二階から小便さしまひょ、ちゅうて歩いたら客は一階まで降りる手間がなくなって頼むぜ」

 男はなるほどと、肥タゴと長い竹の節をくり抜いたのを持って、有馬温泉へ珍商売に出掛ける。男(小便屋)が「二階から小便さしまひょ」と歩いていると、旅館の二階では清八喜六将棋を指している。

清八 「早よ、指さんかい。往生ぎわの悪いやっちゃな。もうお前の負けやがな」

喜六 「やいやい言うな、わて最前から小便しとうて、考えがまとまらんねん」

清八 「下の便所でしてくりゃいいがな」

喜六 「降りるの面倒やし、お前、わしが将棋盤離れた隙に駒動かすやろと思うて・・・」、すると下の通りから「えぇ~、二階から小便さしまひょ」

清八 「けったいなんが来たぜ。おい、二階から出来るんか?」

小便屋 「へえ、竿を届くとこやったらどこでも」、「一回いくらだ?」

小便屋 「四文になっとります。この竹の中に入れとくなはれ」、「そうかちょっと頼むぜ」、小便屋は竹を上へ上げ始める。上ではまだ将棋に夢中で、

清八 「もうおまえの負けや、参ったして小便しいや」

喜六 「う~ん、ちょっと具合悪いかなあ、・・・ちょっと無理か・・・」

小便屋 「具合が悪い?無理な事ないはずやがな」

喜六 「こう打って、こう行って、・・・ああ、金が邪魔しとるか、この金なんとか取れんやろか・・・」

小便屋 「男なら、キン、邪魔にならんようできますやろ・・・キンを取る?・・・」」

喜六 「はたからごじゃごじゃ言うな、・・・はぁ、えらいとこに桂(馬)があるなあ、この桂が無かったらなんとかなる・・・」

小便屋 「・・・毛ぇ?・・・あんた大人やろ・・・そんなこと言うたかて・・・」

喜六 「う~ん、わしの負けじゃ、これでゆっくり小便出来るわい」、なんの商売でも儲けるには苦労がいる。

 隣の座敷では妙齢の娘さんにお供の女中が、「とう(嬢)さん、そんな我慢してたら身体に毒で・・・」

娘 「そやかて下の入口には若い男はんが仰山いて恥ずかしい・・・」

女中 「そや言うたかて二階にはお手水あらしまへんねん」、そこへ、「えぇ~二階から小便さしまひょ」

女中 「えらいおもろい人が来ましたで。二階から出来るのん便利でおますなぁ」と、小便屋を呼んで、

女中 「・・・恥ずかしがらんと、早よこっちに来てしなはらなんかいな。ちょっと!お手水屋さん、あんたなぁ、上見たらあかへんで、必ず上見んようにな」

小便屋 「へぇ、上なんか見いしまへん」

女中 「さぁ、早いことこれにやってしまいなはれ」

小便屋 「さ、どうぞ、上なんか見いしまへんて・・・あれれ、何やこれ・・・手が濡れてきたやがな・・・竹から漏れるよなことはない・・・あぁ、頭までかかってきた・・・どないしてんねやろ・・・上見るな言うたかて・・・わわわぁ!・・・じょうご持って来たらよかった」



    








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