「指南書」

 
あらすじ 京都の商家の若旦那の清吉、短気で喧嘩っ早く、たいそうなヤキモチ焼き。大旦那は心配して檀那寺の和尚のところへ修業に日参させる。そのうちに清吉は人間もだいぶ変わって来た。

 和尚は修業の最後の日に、「おまはんはまだ仕上がっていないところがある。この本を渡しとくさかいに、何か迷ったり、困った時、腹が立ったりした時には、この本を読んでから行動するように」と、一冊の書物、指南書をくれた。

 ある日、清吉は急に草津叔父の店に百両届けることになった。店の者は忙しくて清吉一人だけで東海道を東に向かう。懐に大金を持っているので道中、そばに来る人たちがみな胡散臭そうに見えて仕方がない。

 「草津に行かはるんやったら、ご一緒に喋りながら行きまひょか」と話しかけられると、胡麻の蠅が懐を狙って近づいて来たんやなと疑ってかかる。指南書を開くと、旅は道連れ世は情けで、道連れにして話ながら楽に逢坂山を越えて行った。

 琵琶湖のほとりまで来ると矢橋船が出るところだ。道連れになった人は、「ちょうどええ、歩いたら三里、船なら一里で楽ですがな」、清吉も乗ろうとしたが指南書を開くと、急がば回れだ。

清吉 「わて、急ぎますよって歩いて回ります」、「えっ、おかしな人やな」だが、清吉はてくてくと草津へと向かう。

 瀬田の唐橋
まで来ると急に雨が降り出した。急いで橋を渡ってしまおうかどうしようか迷って、指南書を見ると、急がずば 濡れざらましを 旅人の あとより晴るる 野路の村雨で、橋の袂の茶店で雨宿りをしているとすぐに雨は上がった。

 無事に草津の叔父さんの店に着くと、
叔父さん 「おぉ、どないして来たんじゃ」

清吉 「東海道を歩いて来ました」

叔父さん 「あぁ、それでよかった。さっきのあの夕立で、矢橋船が二隻ひっくり返ったちゅうて浜は大騒ぎやで」、清吉が浜に行って見ると、さっきまで道連れだった人の水死体も上がっている。 この噂は京都にも伝わっているだろうと、叔父さんが泊って行けと言うのを振り切って京都へトンボ帰りだ。

 夜も更けてやっとわが家に帰り着くと、女房が男と布団を並べて寝ている。カッとなって、二人ともたたき殺してやると思ったが、指南書を開くと、七たび尋ねて人を疑え、女房を起こして、

清吉 「おい、ここに寝てるのん、誰や」

女房 「私の兄さんやないかいな。矢橋船がひっくり返ったと聞いて、心配して来てくれたん。明日、一緒に様子見に行こう、言うてたんや」

清吉 「そうやったんか、面目ない。・・・兄さんどうか勘弁しておくれやす」、兄さんにも謝ってその夜は寝てしまった。翌朝になって、

清吉 「ゆうべは、えらいどうもすんまへんでした。草津名物のうばが餅買うて来たんで食べまひょ」、取り出してみると、なんと腐っている。

清吉 「こんなもん、こない早う腐るはずがないで・・・」、またも指南書を見ると、

うまい物は宵に食え




うばが餅



うばが餅屋(東海道草津・広重)



矢橋帰帆(近江八景







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