「朝友」


 
あらすじ 日本橋伊勢町金貸し文屋検校の息子の康次郎と、小日向水道町松月堂の娘、お朝が冥土でばったり再会する。娑婆にいる時は恋仲だった二人は夫婦になって世帯をもとうとする。

 ところがお朝は閻魔大王の命令で妾を探している赤鬼と青鬼に拉致され、奪衣婆のところに預けられる。
婆 「閻魔大王様がお前をお気に召せば玉の輿じゃ。贅沢三昧で何でも望みが叶う、栄耀栄華の暮らしができるぞ」とお朝を口説くが、

お朝 「私には康次郎さんという言い交わした夫があります。醜男でスケベ親父の閻魔の妾になるなど死んでも御免蒙ります」と、断固拒絶。カッときた婆はお朝を庭の松の木に縛りつけて折檻

 一方、康次郎を死なせておいてはお朝は心変わりせず、邪魔なので生き返らせ娑婆に追放されることになった。康次郎は娑婆へ行く途中で、お朝が縛られているのを見つけて助ける。途端に娑婆で棺桶に入れられていたお朝が生き返って、「康次郎さんはどこにいます」

 同じ時に康次郎も生き返った。通夜の席は大騒ぎとなったが、和尚だけは落ち着いている。

和尚 「こういうことも稀にはあるものだ。昔、伊勢の国に文屋康秀という人があった。死んで地獄へ行ったところが、地獄の庁で調べてみると、康秀の命数はまだ尽きてないことが分った。娑婆へ送り返そうとしたがすでに死体は火葬して荼毘に付されてしまっていた。閻魔大王にこの失態が知れれば、自分たちの首が危なくなる。地獄の役人たちはどうしたものかと頭をひねった末、苦肉の策を考えた。同月同時刻に死んだ日向の国の松月朝友の体を借りて康秀を蘇らせた。朝友の家では朝友が蘇ったと喜んでいたが、それも間もなく伊勢へ帰ると言っていずれかへ行ってしまったという。日向の国の松月朝友と小日向の松月堂のお朝、伊勢の国の文屋の康秀と伊勢町の文屋の康次郎。何か因縁があるのじゃろう。あの世での幽霊同士の約束、康次郎とお朝さんを添わせておやりなさい」、「向こうでも都合があると思いますが」

和尚 「いや、幽霊同士の約束だ、お互いあしはあるまい」


    
       「吹くからに秋の草木のしをるれば  
                  むべ山風を 嵐といふらむ」(百人一首)        


   
   伊勢町河岸通(『江戸名所図会』)
伊勢町(現中央区日本橋1、2丁目のうち)の東の現・小舟町との間に、
今は埋め立てれてしまった西堀留川があり、町内で西に曲がって
堀留になっていた。この堀には塩河岸、米河岸などがあり、
米問屋をはじめ諸国物産問屋が並んでいた。



大日坂 小日向2-17と2-18の間を北に上る。《地図
妙足院の大日堂大日如来にちなむ坂名。
大日坂『江戸名所図会』




奪衣婆(正受院) 「説明板
咳止めに霊験があり、治ると綿が奉納され、
綿がかぶせられたことから「綿のおばば」とも呼ばれた。
甲州街道(日本橋→新宿追分』





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