「足上り」

 
あらすじ ある大店(おおだな)の番頭、芝居好きの丁稚の定吉を連れて、中座で芝居見物。桟敷の枡席を買い切り、芸妓たちやらもぎょうさん引き連れての贅沢な遊びだ。好きな芝居を見せてもらい、美味い料理もたらふく食べ、おまけに若い芸妓から小遣いまでもらった定吉は大満足で先に帰る。

 番頭は「帰ったら大旦那さんに、番頭さんのお伴で佐々木さんの所へ行きましたら、碁がはずんで番頭さんは引き止められてしまい、わたしは先に帰って参りました」と言うように言い含める。店へ帰ると閉まっている。定吉は「番頭はんのお帰りや」で、すぐ開けてくれるが、定吉一人と分かるや頭をポカポカとぶたれる。

 定吉を呼んだ大旦那、「こない遅うまでどこへ行ってたんや。番頭どんはどうした」、定吉は手筈どおり、「・・・佐々木さんの所で碁がはずんで・・・」だが、大旦那「・・・佐々木さんは番頭どんに用事があると、つい今しがたまでここに座って待っていたんや・・・、正直に言わんか」

 観念した定吉は、洗いざらいをぶちまける。ついには「番頭さんは今日の費用はみんな筆の先から出るんや・・・」と得意げに言っていたと簡単に裏切り、寝返ってしまった。大旦那「どうもこの間から様子がおかしいとは思うていたが、飼い犬に手を噛まれるとは、このことじゃ・・・明日、請人を呼んで話をつけてしまおう」。定吉は自分が喋ったばっかりに番頭さんの足が上がる、暇を出されることになってしまって悔やむが後の祭りだ。

 そうとも知らず上機嫌で夜更けに帰って来た番頭、店の者は先刻承知で開けると、番頭は抜かりなく甘党・辛党に気を配った土産物を配る。番頭は定吉を呼び芝居の話を始める。定吉は番頭の所業が大旦那にバレていることなどおくびにも出さず、定吉が中座から帰った後の芝居の話に聞き入る。

 番頭は四谷怪談隠亡堀の戸板返し蛇山の庵室、伊右衛門の夢の場と、身振り手振りで得意げに話して行く。

番頭 「・・・お岩、まだ浮かばれぬな・・・寄るな、寄るでない・・・何、何、この子を育ててくれと申すか、ああよしよし、確かに育てるほどに、迷わず成仏してくれ、おお、よしよしよし、・・・む、こりゃ赤子と思いのほか、石仏。・・・・ヒッヒ−ヒッヒヒッヒェー」

定吉 「ああ怖(こわ)、・・・わて今晩、よう寝ん、こらとても一人で便所へ行かれへん。こんな怖い話はじめて聞きました」

番頭 「わしが今この蚊帳(かや)の陰へスーッと消え込む時に身体(からだ)が宙に浮いたように見えたやろ」

定吉 「宙に浮くはずや、番頭さん、さいぜんに足が上がってますわ」



     
番頭              定吉


  
  
四谷怪談



江戸市村座(安政5年(1858))

「中座」の写真(『道頓堀写真館』)


 「足が上がる」とは、奉公人が失敗して奉公先を追われること。



桂米朝の『足上がり【YouTube】


   お岩さまの墓(妙行寺 ・豊島区西巣鴨))

由緒
 

田宮稲荷神社お岩稲荷
(新宿区左門町)

説明板

於岩稲荷(陽運寺
(新宿区左門町)

  田宮於岩稲荷神社
(中央区新川2丁目)





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