「あたま山」


 
あらすじ 春本番のある日に花見に出かけた吝兵衛(けちべえ)さん。周りはみな趣向をこらして桜の下で飲み食いしどんチャン騒ぎで浮かれているが、それを横目で見ながらけちの名に恥じずに飲まず食わずだ。ただぼんやりと桜を見ながら歩いているとサクランボが落ちている。「いいものを見つけた」と拾って食べて家に帰って寝てしまった。

 翌朝、頭が痛いので目を醒ますと、頭の上から桜の木の芽が出ている。折角ただで芽生えたものを摘み取るのももったいないとそのままにしておいたら、みるみる大きく育ってみごとな花を咲かせた。
これが世間の噂となり、大勢が押し寄せ吝兵衛さんの頭の上で花見、宴会、茶店、花見客の喧嘩も出る騒ぎとなった。

 吝兵衛さん、これはたまらんと植木屋に頼んで桜の木を引っこ抜いてしまった。その跡には、ぽっかりと大きな穴が開いてしまった。ある時、どしゃ降りの夕立に遭い、頭の穴に水が一杯溜ってしまった。またケチ根性を発揮した吝兵衛さん、水を捨てるのはもったいない、そこで行水でもすれば湯銭が浮くと、そのままにしておいたから、水が濁ってボウフラがわく、ダボハゼ、鮒(ふな)、鯰(なまず)がわく、ドジョウ、鯉(こい)、エビガニがわく、・・・・・とうとう、今度は頭の池が絶好の釣り場になってしまった。頭の池には釣り人がどっと押しよせ、 釣り舟や芸者連れの屋形舟まで出て飲めや歌えの大騒ぎ。吝兵衛さんの鼻や耳の穴に針や糸を引っかけたり、四六時中のドンちゃん騒ぎで眠ることもできない有様だ。

 つくづくいやになった吝兵衛さん、こんな苦労をするよりは、いっそ一思いに死んでしまおうと、
南無阿弥陀仏と手を合わせて、自分の頭の池にドボーンと身を投げてしまった。









御殿山花見之図」(広重画)





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