「べかこ」


 
あらすじ 泥丹坊堅丸という上方の噺家、九州に巡業に来て肥前の武雄の温泉場大黒屋市兵衛とい宿屋の親父さんに世話になりながら、あちこちのお座敷や催し物で仕事をしていた。

 ある日、佐賀のお城から家老の菅沼軍十郎が訪れ、姫君の気鬱(きうつ)の病いを癒すため城へ来て泥丹坊に面白い噺をしてもらいたいと言ってきた。早速、市兵衛さんは泥丹坊を身綺麗にして、二人で城へ向かった。家老の菅沼は噺の前に泥丹坊を城内の部屋を案内すると言い、狩野派の絵が描かれているの間からの間、の間へと案内した。さらに牡丹の間、紅葉の間、の間と続くが、泥丹坊が連想するのは花札だけと風雅がない。

 やっと次の(にわとり)の間で休憩、ここで待つようにと言い家老は泥丹坊を一人残して出て行った。お茶とお菓子でくつろいでいると、外の廊下を衣擦れの音、腰元たちがが覗きに来たのだ。
さん、「この前の上方からの役者と申す芸人は踊りを見せてくれましたが、ホンによい男ございましたなぁ、今日の噺家とか申す芸人も、きっともっとよい男でございましょ〜なぁ」と、期待に胸躍らせ、ちょっと覗き見して思わず吹き出し、「う、わたしはこのような面白い顔をした男を見たことがございません。 ちょうどまぁ、(ちん)が茶を吹いたような顔」ときた。
わたくしもと覗いた牡丹さんは、「まぁ、ホンにこれはちょうど、水桶の紐通しのような顔でございます、ちょ〜どあの鼻があぐらをかいている具合が・・・」、なんて散々な言いように泥丹坊も頭にきてびっくりさせてやろうと、覗き見している襖(ふすま)の下に這って行った。
ちょっとわたしにも見せてと紅葉さんは、座布団の上にいるはずの噺家を探すが見当たらない。「どこに、どこに」と、襖を少しづつ開け出した。

 その真下で待っていた泥丹坊が「べかこ〜!」と顔を突き出したから、「きゃぁ〜!」、「べかこ、べっかぁこ〜」、「きゃ〜」、バタバタ、バタバタと城内は大騒ぎとなった。
「あの噺家とか申す芸人が腰元たちを追いかけ回してております」で、「何とけしからんやつ」と、哀れ泥丹坊先生は召し取られてしまった。泥丹坊は、「あんまり顔の悪口ばっかり言うから、冗談、洒落のつもりで”べかこ”をしてお女中たちを驚かしただけだ」と、申し開きをしても通じない。あいにく市兵衛さんは忙しいからと先に武雄に帰ってしまい、頼みの綱の家老の菅沼さんはどこへ行ったやらで泥丹坊先生の回りに味方はいない。

 「明朝、鶏(にわとり)が鳴くまで縄目を解くことはあいならん。目の前に鶏の絵が描いてある、この鶏に鳴いてくれと頼むがよい」と、無茶なことを言って家来の侍は泥丹坊を柱にくくりつけ行ってしまった。もう成す術(すべ)のなくなった泥丹坊は絵の鶏に鳴いてくれと頼むしかない。
泥丹坊 「お前、名人の手になる鶏やろ。わしのためにひとつ”コッカコ−”と鳴いてくれ。 どう〜ぞ、頼む〜!」、その祈りが通じたものか、絵の中から鶏が出て来た。 

泥丹坊 「コッカコーと鳴いてくれ、頼む〜!」、

はバタバタ〜、バタバタ〜と羽ばたきをしたかと思うと、

「べかこ」





桂米朝の『べかこ【YouTube】





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