「大工調べ」  古今亭志ん朝

 
★あらすじ★ 大工の腕はたいしたものだが、頭の回転がちょっと遅い与太郎がしばらく仕事に出て来ない。
心配した棟梁の政五郎が長屋に行ってみる。
家賃を1両と800文ため込み、家主の源六に家賃のかたに道具箱を押さえられ、持って行かれたという。
政五郎は家主の所から道具箱を返してもらって来いと、持っていた1両を与太郎に渡す。
まだ800足りないと言う与太郎に、政五郎は「1両あれば御の字だ。800ぽっち足りないのはあたぼうだ」などと吹き込んでしまう。

家主の所へ行った与太郎。
800足りないと言われ、楽屋話の「御の字、あたぼう」を披露してしまう。
怒った家主は、道具箱は返さないばかりか持ってきた1両も取上げて与太郎を追い返す。

政五郎は与太郎を連れ、家主に謝りに行き、再度道具箱を返してやってくれと頼む。
不足の800文を払えば道具箱はすぐ返すという家主に、政五郎は何度も頭を下げ事情を話し頼むが、つい、「たかが800」、「800ばかり」、「800くらいの金はすぐ放り込む」などと言ってしまう。
これを聞いた家主も意固地になり道具箱は返さない。
ついにたまりかねた政五郎、けつをまくり威勢のいい啖呵で家主に食ってかかる。
源六が家主になれた裏話まですっぱ抜きだ。
与太郎も家主に悪口を浴びせかけようとするが、ピントがはずれ迫力がなく、これはどうもいまいちの感じだ。

政五郎は南町奉行所へ願い出る。
こんな些細なことは奉行所では取上げないのだが、与太郎が道具箱を取上げられ仕事の手間賃が入らず、「老母一人養いがたし」という訴状は奉行所でも放っておけない。
奉行は家主に対する無礼をいましめ、即刻800文の支払いを命じる。
政五郎が800文を支払うと、再度お白州に一同集まる。

奉行は家主の源六に質株を持っているかを聞く。
源六が持っていないと答えると、質株なくして道具箱を質にとるのは不埒者、不届きとのお咎め。
源六に道具箱を押さえていた20日間の手間賃200匁を支払うように命じる。
源六が与太郎に200匁を渡し、またお白州へ集合だ。
さあ一件落着、皆が引き下がり始める。すると、奉行が政五郎を呼び止める。

奉行 「1両800のかたに200匁とは、ちと儲かったであろう。さすが大工は棟梁(細工は流々)」

政五郎 「へえ、調べ(仕上げ)をごろうじろ」

      

 ★見聞録★ 昭和59年にテレビから録画した噺です。霞ヶ関のイイノホールで演じられました。
奉行所へ駆け込む場面まで演じることが多い噺ですが、調べ(裁き)のところまできっちり聞かせてくれます。
政五郎が与太郎のために因業な家主に下手に出て頭を下げ、道具箱を返してくれるように頼み、ついには堪忍袋の緒が切れて、家主にポンポンと矢継ぎ早に啖呵を浴びせて行くくだりが最高です。
早口の江戸弁でまくし立てる政五郎のせりふは聞いていて胸がすうっとします。これも志ん朝ならではでしょう。

志ん朝は政五郎を明るく、きっぷのいい、思いやりのある江戸っ子として描いています。腕がいいうえに、こんなめんどう見のいい棟梁の下で働ける与太郎は幸せ者でしょう。銀200匁(もんめ)は3〜4両くらいですから、ちとではなく、だいぶ儲かったのでは。
庶民の味方の粋な裁きをしたお奉行さんもたいしたものです。
家主の源六氏も頑固で融通の利かない人ですが、悪人ではないようです。
落語らしい筋、舞台、登場人物、そこに噺上手の落語家が加わったまさに落語に数ある「裁き物」・「政談物」の傑作でしょう。

古今亭志ん生の『大工調べ【YouTube】

   棟梁の政五郎が住んでいた神田竪大工町の通り。
(JR山手線の神田駅西口の内神田3-14と3-15の間の通り)
   佐竹稲荷(内神田3-10)
西口商店街の中にある。
   家主の源六が住んでいた神田三河町。与太郎の住んでいた長屋もあった。
(鎌倉橋から神田公園辺りまでの間の外堀通りの両側。)竪大工町の西側。

(佐竹稲荷の所にある江戸時代の地図)
神田竪大工町は下の少し右側、現在地標示の右下。
神田三河町は、上の左(鎌倉河岸)から右にかけての一帯。横大工町もある。



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