「犬の目」
★あらすじ 医者にも様々あります。「藪医者」、藪になる前の「たけのこ医者」、どんな病気にも葛根湯を飲ませる「葛根湯医者」、なんでも手遅れにしてしまう「手遅れ医者」。屋根から落ちてすぐ連れてきたのに手遅れという。いつ連れて来たら手遅れにならないのかと聞くと、落ちる前に連れて来なければだめだという迷医だ。
目を患った男が友達から洗井シャボンという目医者を紹介されて治療に行く。
シャボン先生は男の両目をくり抜いて薬を溶かした湯につける。しばらくして目を洗い、入れようとするが入らない。
シャボン先生 「どうやら薬の湯につけ過ぎて目がふやけたらしい。日向へ出して乾かそう」と、日当たりのいい縁側に干して目が元の大きさになるのを待つ。先生は浪曲の、お里沢市「壷坂霊験記」など語りだす余裕だ。
シャボン先生 「もうよかろう。おやおやお前さんの目が見当たらない」
男 「冗談じゃねえ。どうしたんです、先生?」
シャボン先生 「庭の木戸からあの犬が入って来て目を食べてしまったようだ。心配するな、犬の目をくり抜いてお前さんの目に入れてやろう。うまく合わなければセメントで固定すればいい」
男 「そうしたら犬が困るでしょう」
シャボン先生 「なあに、犬の腹の中にはお前さんの目が二つ入っているから、春になったら芽(目)をふくだろう」、先生は弟子に犬を捕まえさせ目をくり抜いて、男の目に入れるとしっくりと合った。
シャボン先生 「ああ、ちょうどいい。さあ、目を開けてごらん」
男 「真っ暗で何も見えないですが」
シャボン先生 「そんなはずはないんだがな、どれどれ・・・いや失礼、裏返しに入れた。すぐに入れ替えてやる・・・どうじゃ、これで」
男 「ああ、よく見えます。・・・けど、逆さまです」
シャボン先生 「いけない、逆さまに入れてしまった。・・・今度は大丈夫だ」
男 「うわぁ〜、こりゃあ、今までよりもずっとよく見えます。・・・先生、あそこに怪しいやつがうろついていますよ。ひとつ脅かしてやりましょう。・・・ウ〜ッ、ワンワンワン!」
シャボン先生 「おいおい、まだ目ん球は入れたてなんだからあんまり大きな声出したり、力を入れたりすると飛び出してしまうぞ」
男 「へぇ、ありがとうございます。さようなら・・・あっ、こりゃあ、うっかり表へ出られねえ」
シャボン先生 「どうしてだ?」
男 「電信柱を見ると片足上げてしまいます」
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