「大名道具」

 
あらすじ ある国の大名、領内は安泰、文武両道にすぐれ何の不満のないはずだが、自分の持ち物が小さく、お粗末なのが悩みの種で、奥方の欲求不満もつのるばかりだ。奥方は腰元たちから聞いた、その方のご利益甚大という、城下外れの白幡の森の金勢大明神に願掛けに行く。だが、やっぱり本人が行かなければご利益はないようで、殿さまに参るよう勧める。

 家老の三太夫と家来を従え金勢大明神へやって来た殿さま、手を合せ拝殿の中のご神体を見てびっくり、自分の物とは大違い、その立派さに嫉妬し、「余に当てつける気か!」と、槍持ちの可内(べくない)から槍をひったくると、拝殿に突き入れてご神体を倒してしまった。

 怒った金勢さまはその夜、殿さまを始め家中の三千人の男どもの一物を取ってしまった。あわてた殿さま、家来を引き連れ金勢大明神に参り非礼を詫び、ご神体を元どおりに直し多額の喜捨をしたが、いっこうに金勢大明神の怒りは収まらず、家中の男どもの股間には秋風が吹いている。

 困った家老は重役たちと相談の上、城の鬼門に当たる摩羅山に住む霊能力を持つ修験者を呼び、護摩壇を作って、秘法「マラ返し」の祈祷を行うことになった。

 修験者は不眠不休、飲まず食わずで祈祷を続けること三日目、祈祷の効き目か、金勢さまが気の毒に思ったのか、稲光と雷鳴が轟き、十俵の米俵が天から降ってきた。縄がはじけて中から米でなく、三千人分のお道具がこぼれ出てきた。

 すると殿様は素早く動き、一番立派な逸物を懐に入れるとさっさと奥へ引っ込んでしまった。後に残るは殿さまの物だった粗品を除けば、大同小異、家来どもは適当に見つくろって持って行ってしまった。

 さて一人取り残されたのは、城内きっての八寸銅返し大道具の持ち主だった槍持ちの可内だ。床にぽつんと取り残された殿様の小物を指でつまんで、しょんぼりと引き下がって行った。

 所変わって、奥へ入った殿様は大変身だ。思いもかけない大事に奥方は大喜びで連戦また連戦で、腰も立たない有様だ。そこへ慌ただしく家老の三太夫が駆け込んで来た。

三太夫 「殿!申し上げます」

殿さま 「何事じゃ、騒々しい」

三太夫 「ただいま槍持ちの可内めが、腎虚(じんきょ)で倒れました」


 鈴々舎馬風(ビヤホール名人会)
収録:昭和61年12月


  
           金精宮(中に石棒の男根のご神体・秩父市内)


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