「だくだく」
★あらすじ いつもドジばかる踏んでいる泥棒、今夜もキョロキョロと空き巣に入る手頃な家を物色している。運よく明かりがぼんやりついて、戸が半分開きかかった家がある。
しめたとばかり、そろりと忍び込んでみると、家中に豪華な家財道具がずらり。床の間に南画の山水の掛け軸、金庫が半開きで中に一万円札の束、総桐の箪笥の引き出しには結城の着物に博多の帯、茶箪笥の上に銀の置時計、長火鉢には南部の鉄瓶がかかって湯気が出ている。寝そべっている猫、長押(なげし)には槍・・・・、と壮観だ。だが、暗さになれてよく見るとみんな壁に貼った紙に描かれた絵だ。
すぐに家から出ればいいものを泥棒、洒落ているのか、芝居っ気があるのか、根っからの馬鹿なのか、盗むものが何もなければ、せめて盗んだ気にでもなろうと、「まず箪笥(たんす)の引き出しを開けて風呂敷を出して広げ、結城の着物、博多の帯を包んだつもり。茶箪笥の上の銀の置時計を包んだつもり・・・・風呂敷を結んで背負ったつもり、重すぎて立ち上がれないつもり」と、実演し出した。
泥棒の「つもり芝居」の途中で目を覚ましたこの家のあるじの八五郎。前の長屋から家財道具を全部くず屋に売り払って、ここに引っ越して来たばかり、何も家財がないのは殺風景と、知り合いの絵師に絵を描かせたのだ。
何事かと目をこすって見ると泥棒が一人芝居を熱演中だ。面白いと見ていたが、たとえ絵でも、好き勝手に盗んで行かれるのに我慢が出来なくなって来た。それなら俺もやってやろうと、布団をぱっとはねのけ、
八五郎 「長押に掛けたる槍をりゅうとしごいて、泥棒の脇腹をプツーと突いたつもり」
泥棒 「うーん、血がだくだく出たつもり」
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★桂文治(十代目)の『だくだく』【YouTube】
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