「出来心」

 
あらすじ 親分から呼ばれたドジで間抜けな新米泥棒親分はお前は泥棒の素質がなく見込みがないから、この稼業から足を洗って堅気になれと言う。泥棒は「心を入れ替えて悪事に励む」と頼むので、親分は空き巣から出直せと、空き巣のイロハから細かいテクニック、秘伝のノウハウまでを叩きこむ。

 手頃な家を見つけたら声を掛けて返事がなかったら忍び込むが、返事があれば「何の何兵衛さんはどちらで?」と、ゴマかして立ち去ればいい。もし忍び込んで見つかったら、「失業しておりまして、八十のお袋が長患いで、十三を頭に五人の子どもがいます。貧の盗みの出来心でございます」と、泣き落とせばいいと伝授する。

 早速、泥棒は仕事に出掛ける。ある家で、「ええ、何の何兵衛さんはどちらで?」とやって、「何の誰だ?」に、「いえその、イタチサイゴ兵衛さんは・・・」と、しどろもどろで逃げだした。次の家では「イタチサイゴ兵衛さんは・・・」に、「俺だよ」とまさかの展開となって慌てて飛び出す始末だ。

 やっと空き巣にぴったしの家を見つけ忍び込むが、何も盗る物がない。残っていたお粥なんか食っていると、そこへ帰って来たのがこの家のあるじの八五郎だ。泥棒は慌てて縁の下に隠れる。

 八五郎は足跡だらけの家の中を見て空き巣に入られたとすぐに気づくが、それを溜っている店賃の言い訳にしようと悪智恵を働かす。急いで大家を呼んで元々何もない家の中を見せ盗難にあったから店賃は待ってくれと懇願する。

 家の中を見た大家は確かに何も無いので店賃の日延べをOKする。大家は盗品届を出すから、盗られた物を言って見ろと言う。八五郎、苦し紛れに「布団をやられた」、「どんな布団だ」、「大家さんとこと同じ布団だ」、「表は唐草で、裏は花色木綿だ」、「その花色木綿の布団で」、その後で八五郎の言う盗品は羽二重の紋付も博多の帯も蚊帳(かや)も桐の箪笥も刀も南部の鉄瓶もお札(さつ)も全部裏が花色木綿だ。

 これを縁の下で聞いていた泥棒、我慢できずに下から飛び出して来て、「冗談じゃねえやい、さっきから聞いてりゃいい気になりゃがって、てめえの家には何も盗るもんなんかねえじゃねえか」

八五郎 「おやっ、そんなとこから飛び出しゃあがって。てめえは泥棒だな」

泥棒 「この家には何も盗めるものなんぞねぇ」

八五郎 「盗らなくたって、人の家にだまって入りゃ泥棒だ」で、親分から教わったとおり、

泥棒 「失業しておりまして、・・・・・十三のお袋が長患いで八十を頭に五人の子どもがいます。これもほんの貧の出来心で・・・・」と哀れっぽく謝った。

 泥棒に嘘をすっぱ抜かれた八五郎はバツ悪そうに、縁の下にもぐり込んだ。

大家 「おい八五郎、何も盗られてねえそうじゃねえか。どうしてあんな嘘ばかり並べたんだ?」

八五郎 「これもほんの出来心でございます」




柳家小三治の『出来心【YouTube】


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