「五月幟」


 
あらすじ 熊さん夫婦男の子初節句だが、熊さんは大酒飲みで祝い事をする金もない。
見かねた叔父さんが人形でも買って祝ってやれとかみさんにこっそりと金を渡した。

 これを横目で見ていた熊さんが、「おれが人形を買って来る」と言い出す。かみさんは金を渡せば飲んじまうので駄目だと言うが、熊さんは「叔父さんから人形を買えと預かった金だから、絶対に飲んだりはしない」と言って人形を買いに行く。

 途中、寿司屋の二階から「熊兄ィ」と声が掛かる。通り過ぎようとするが若い者の喧嘩の手打ちでどうしても中に入って手打ちを仕切り、説教の一つでも言ってくれと離さない。

 熊さんは断り切れずに二階に上がる。そうなれば先は見えてる。「今日は飲まない」が、「じゃあ、一杯だけ」になり、「まあ兄ィ、そう言わずに駆けつけ三杯と言うから」で、さらに飲み続けべれべれに酔って、懐(ふところ)から人形を買うはずの金を出して気前よく、「勘定の足しにしてくれ」と見栄を張り、若い者たちに見送られて家に帰って来た。

 かみさんはいつもの熊さんのていたらくに涙ながらに、子どもを連れて出て行くなんて言い始めた。ばつが悪くなった熊さんはすごすごと二階へ上がって寝てしまった。

 しばらくしておじさんが様子を見に来る。かみさんから人形を買うはずの金で飲んでしまったと聞いたおじさんは、今日こそは懲らしめてやると二階へ上がる。
おじさん 「こら、熊、起きろ、何だって人形を買う金で飲んじまうんだ」

熊さん 「いえ、おじさん、人形(のぼり)がちゃんと買ってあります」

おじさん 「どこにある?」

熊さん 「おじさんが、梯子をトントンと上っておいでなすった。これが初幟(上り)だ」

おじさん 「人を馬鹿にするな」

熊さん 「あっしが酒に酔って真っ赤になった金太郎で、酔いがさめたら鍾馗(正気)になりまさぁねえ。この通り人形がございましょ。もう、決して酒、博打はいたしません。勝負事は断ちます。菖蒲太刀(勝負断ちで」

おじさん 「呆れた野郎だ」

熊さん 「おじさん、柏餅を御馳走しましょう」

おじさん 「そんな物、どこにある」

熊さん 「この五布(いつぬの)布団にくるまったところが柏餅、まろび寝の 我は布団の柏餅 かわいと言うて さすり手もなし、頭の出ているのはあんこがはみ出したところ、おじさんなめてごらんなさい」

おじさん 「てめえがそう言うなら、俺も一つ祝ってやろう」

熊さん 「大きな声だな、おじさん」

おじさん 「この声(鯉)を吹き流しにしろ」






        



春風亭柳枝(八代目)の『五月幟【YouTube】





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