★あらすじ 村崎式部というある大藩の祐筆を務めていた男。のっぺり、おっとりとした美男子で同僚たちから「源氏蛍の君」と仇名されていた。
式部は品行方正だったが、ひょんなことから吉原に通い始めて、大見世の玉屋の中将という花魁にぞっこんに惚れられてしまった。
式部は中将を身請けして女房にしたが、「祐筆の身分で遊女を嫁にするとは不届き千万」と、上役たちの怒りを買って藩から追放されて浪人の身の上となった。
式部は町内の手習いの師匠となって生計を立てている。夫婦仲もよかったのだが、色男の式部に手習いに来ている近所の菓子屋の十五になる娘が夢中になってしまった。そのうちに二人は人の噂に立つような仲になり、女房もやきもちを焼き始めた。
ある日、式部が反物の仕立てを菓子屋の娘に頼もうと言ったもんだから、女房の怒りが爆発、母親の止めるのも聞かずに、反物からそこらにある物を手当たり次第、はては源氏物語五十四帖の本までも式部めがけて投げつけてきた。さすがにおっとりしている式部でも頭にきたが、そこは手習いの師匠で、
式部 「もうもう縁を桐壺と、思うておれど箒木(ははきぎ)が、蜻蛉(かげろう)になり日なたになり、澪標(みをつくし・身を尽くし)て少女(お止め)になるゆえ、須磨しておれど、悋気のはてに蛍(放ったる)この五十四帖、もう堪忍の(野分)気もなくしたり・・・」、
女房 「そりゃあ、あんまりのこと夕顔でござんす。早蕨(童・わらべ)みたいな橋姫(菓子姫)と、御法破りの浮気舟(浮舟)、手習いと偽っての薄雲隠れ、二人で胡蝶胡蝶(こちょこちょ)したる東屋(四阿・あずまや)を突き止めて明石したるからは、この真木(薪)柱で空蝉(うつせみ)にしてくれようぞ。紅梅(頭(こうべ))を垂れて覚悟めされよ・・・」
まだまだ続くようだが、いつ取っ組み合いの喧嘩に発展するかも知れない。見かねた母親が隣のかみさんに仲に入ってくれと救援を頼んだ。
かみさん 「まあまあ、いつも大変ですねえ。式部さんも式部さんなら、ご新造さんもやきもちが過ぎるせいか、始終苦情(四十九帖)が絶えませんねえ」
母親 「いえ、五十四帖でございます」
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