「眉間尺」


 
あらすじ 七兵衛提灯屋へ町名と名前をつけた提灯をあつらえに行くと、裏には家紋を入れた方がいいと言われたが、どんな家紋か分からない。

 町内のやかん先生に聞きに行くと、
先生 「・・・家々には必ず家紋がある。紋はその人の氏より出たものだ」

七兵衛 「へえ、あっしは家は宇治より安い静岡で・・・」

先生 「お茶ではない。両親が紋の付いた着物を着ていたのを見たことがあるだろう」

七兵衛 「ああ、それならうわばみです」

先生 「大蛇(うわばみ)なんて紋はない。かたばみ(片喰)だろう」

七兵衛 「そうだそうだ、かたばみかたばみ。気のきかねえ紋で、今度は威勢のある縁起のいい太鼓の紋にしようと思いまさあ」

先生 「それは巴紋だが、あまり縁起がいいとは言えんな」、「へえ、そりゃあなぜです?」

先生 「唐土(もろこし)の王のは太っていて夏の暑さに耐えられずに、毎夜黒鉄(くろがね)を抱いて寝ていた」

七兵衛 「助兵衛な女ですね。真っ黒な棒を抱いて寝るなんて」

先生 「そうではない。体を冷やすためだ。だが、不思議なことに妃は孕(はら)んで鉄の丸魂を産んだな」

七兵衛 「そうでしょ、やっぱり助兵衛だ」

先生 「黙って聞きなさい。楚王は珍しがって唐土一番の干将という刀鍛冶に刀剣を二ふり作らせた。干将は古今無双の鉄味(かねあじ)の剣を打ち上げたが、あまりの上作ゆえ、一ふりを隠してしまった。それを楚王の知るところとなって、干将と莫耶夫婦は首を刎ねられた。子のは刀一ふりを持って山中に逃れ隠れた。赤は眉間の広さが一尺あったというな」

七兵衛 「おっそろしいでこすけですねえ、大文字屋福助さんの祖先ですかい?」

先生 「楚王の捕り手は迫って来て、赤は親の仇を報じ難きを嘆き悲しんでいた」

七兵衛 「そんな大でこじゃどこへ隠れたって、頭から知れらあねぇ」

先生 「そこに侠客が来て、汝、吾にその剣と首を渡さば、吾、汝のために楚王を討って恨みを晴らさんと、言ったな」

七兵衛 「うまいこと騙(かた)ってその侠客、赤の首と刀を持って楚王に差し出してごっそりと褒美にあずかろうという魂胆が見え透いてまさぁね」

先生 「赤は喜んで自らの首を刎ねた。だが死骸は刀剣を支えにして倒れず立ったままだ。侠客が死骸に向かって、吾、汝に背かずと誓うと、赤の死骸は安心したのかばたりと倒れた」

七兵衛 「なるほど刀剣はもとは鉄の棒だ。これを棒立ちという」

先生 「侠客は赤の首を楚王に差し出して首実検を請うた。その首、今だ生けるがごとしで、楚王は首を三日三晩煮るように命じたな」

七兵衛 「トロトロ軟らかく煮込んで、首煮込みで一杯やろうと・・・」

先生 「煮ても煮ても首は少しも崩れないと聞いた楚王は釜の中をのぞいた。そこへ後ろから侠客が近づいて干将の剣で楚王の首を釜の中に打ち落とした。釜の中では赤の首と楚王の首が戦い始めた。その形勢たるや赤に利あらずと見た侠客は、加勢せんと自らの首を刎ねて釜の中に入った。三人の首は釜の中をぐるぐると回って戦い続けた。これを三つ巴の争という。後の世にあまり罪深きものゆえ、太鼓にその形をつけて打ち叩きて罪の滅せんことを計る。国乱れたるたるゆえ、家々の軒下に太鼓を吊るしておいて、非常事態の時にはこれを打ち、村中が集まり来りて大勢で防いだ。太平の世になって太鼓の入り用もなくなり、蔦をからんで、これに鳥が来て刻をつくっておる」

七兵衛 「それで軒下の瓦には巴の紋をつけるんで」

先生 「火事を防ぐともいうが、は三人のの形じゃ、あまり目出度い物ではないな」

七兵衛 「へえ、なるほどねえ。それじゃ、かたばみもよしましょう」、「なぜだ」

七兵衛 「三人のだから」



  

 吉原京町の大文字屋の初代村田市兵衛かぼちゃ頭で有名だった。その子の二代目市兵衛は狂歌名を加保茶(かぼちゃ)元成、俳名を如昇といった。三代目は加保茶元成二世の加保茶宗園



        

647(2018・1)




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