「五人廻し」


 
あらすじ 川柳に、「人は客我が身は間夫(まぶ)と思う客」、「女郎買いふられて帰る果報者」
 五人の客を取った喜瀬川花魁(おいらん)、杢兵衛(もくべえ)大尽の部屋へ入ったきりで、他の客の廻し部屋には廻って行かない。こうなると苦情処理係の若い衆(し)は忙しい。

 初めの客は料理だけ食って出て行ったきり、待てど暮らせど姿を見せない三日月女郎、いや今宵は皆既月食か、喜瀬川を寝たふりをして待っている男の部屋。若い衆「・・・もうじきお見えになります。しばらくご辛抱を・・・吉原には吉原の法、廓の法がございます・・・」、でカチンときた男、「・・・廓法だと・・・こちとら三つの時から大門をまたいでいるんだ。そもそも吉原というものは、元和三年の三月に・・・」、と長々と吉原の成り立ちやら仕組みやらをべらべらと講釈しだして、挙句の果ては玉代を返せときた。こんな奴に長々と関わりあっちゃいられない、「・・・ごめんなさいまし、ただいまじきに喜瀬川おいらんが伺いましから」と、若い衆は逃げ出した。

 すると、「おい、こらぁ、待てぇ、小使い、給仕・・・」と声が掛かった。若い衆「・・・あたしのことで、へい、今晩は・・・・」と入ると、客は「貴様、何歳に相なる?」、「四十六歳になります」、「男子ともあろう者が、四十六にもなって、客と娼妓と同衾するを媒介して何が面白いか?・・・怠惰薄弱心からして、かかる巷の賤業夫に身をやつし、耳に淫声を喜々、目に醜態を見る。今日を無念夢想、空空寂寂と暮らしていて両親に申し分けが立つか」と、さんざん意見をした後、「ここに枕が二つ並べてあるが、一つはむろんわが輩が使用するとは分かっちゃおるが、さてもう一つは猫でもが使うのか?」なんて、しらじらしいことを言っている。さらに「男子たるべき者が登楼する目的とは奈辺にあるか、女郎買いの本分たるや・・・・ただちに玉代を返せ!まごまごするとダイナマイトを仕掛けるぞ!」なんて、すっかり切れてしまって穏やかでない。若い衆「今しばらくお待ちを、すぐに喜瀬川おいらんが伺いますので」と言って引き下がるしかない。

 今度は、「廊下をかれこれとご通行になる君、ここへもお立ち寄りを」ときた。若い衆が部屋へ入ると、「・・・いざお引け、閨中の場合となってから、そばに姫が侍っている方が愉快とおぼしめすか?はたまたご覧ぜられるごとく何人もおらん方が愉快とおぼしめすか、尊公のお胸に聞いてみたいねえ、おほほ・・・」だと。若い衆「もうほどなくお見えになります。しばらくご辛抱を」、まではよかったが「・・・ちと尊公の背中を拝借したい。この焼け火ばしを尊公の背中へジューと当てがって、東京市の紋を書いてみたい・・・玉代を返せ!」と、サド趣味丸出しとなった。東京産の牛肉じゃあるまいし、生身の身体に東京市の刻印なんか押されたらたまったもんじゃないと、若い衆は部屋を飛び出した。

 またもや「ちょいと来てくんな、切り出し君・・・」、若い衆「・・・切り出し君というのは手前のことで・・・」、「そうだてめえだ。てめえなんざあ、まだ妓夫(牛)の資格はねえや。牛のくずだから切り出し(小間切れ)でたくさんだ」と、まだ牛を引きずっている。客「無くなりもんがあるんだ。どうしても見っからねえ。ちょっと探して見てくれ」、「・・・畳の間に銀貨でもお落しで・・・」、客「おれが買った女がいなくなっちまったんだ。畳を上げても出て来ない・・・玉代を返せ・・・」、畳まで上げるとはもう放っておけない、待ちぼうけを食わされている客たちは今や暴発寸前だ。若い衆は急いで喜瀬川がいる杢兵衛大尽の部屋へ。

若い衆 「おいらん少しはほかも廻ってやってくださいよ」

喜瀬川 「あたしゃ、この人のそばを離れるのがいやなんだよ」

杢兵衛大尽 「おらぁと喜瀬川は年期(ねん)が明けたら夫婦(ひいふう)になる身だ。そしたらいつでもくっついていられるから、ちょっとほかも廻ってやれと言っただが・・・それで、ほかの客はなんちゅう言ってるかえ」

若い衆 「へえ、玉代を返せってんで」

杢兵衛大尽 「ふーん、田舎もんが、そんなざまだから女(あま)っ子にもてねえんだよ。花魁どうするべべえ」

喜瀬川 「玉代返して帰っておしまいよ」

杢兵衛大尽 「そうけえ、われがそう言うなら、玉はおらが出してやるべえ、・・・いくらだ?」

若い衆 「一人一円、四人(よったり)で四円で」、四円払って

杢兵衛大尽 「さあ、これでわれも安心してここにいられるぞ」

喜瀬川 「だけどもねえ、もう一円はずんであたしにくださいな」

杢兵衛大尽 「そうか、われがそう言うなら、さあ、一円やるべ。もらってどうするべ?」、一円受け取った

喜瀬川 「それじゃ、この一円あらためてお前にあげる」

杢兵衛大尽 「おらがもらってどうする?」

喜瀬川 「お前さんも、これを持って帰っておくれよ」




        



古今亭志ん朝の『五人廻し【YouTube】





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