「鼻ねじ」


 
あらすじ 丹波屋の主人が庭の見頃のを眺めていると、隣の学者の家の塀沿いの花がバラバラと落ちて来た。よく見ると学者が枝を折っているのだ。主人は定吉を呼ぶ。
主人 「定吉、定吉、・・・・」

定吉 「何ですか?」

主人 「呼んだらすぐ来なさい。百辺も呼んだんだぞ」

定吉 「嘘つきは泥棒の始まりです」

主人 「何だ主人に向かって泥棒とは」

定吉 「百辺呼んだなんて嘘です。六辺です、ちゃんと数えてました」

主人 「人の揚げ足ばかり取るんじゃない。お隣にお使いに行きなさい」

定吉 「朝から晩までお使い、お使いって。雑巾ならとうにボロボロになってますよ」

主人 「使いに行くから使用人だ。今、口上を教えるから隣に行って談判して来なさい」

定吉 「隣ってどっちの隣ですか?」

主人 「学者の家へ行ってこう言いなさい。今日も結構な、お天気でござります。主人が縁先で桜を眺めておりますと、急に花が落ちて参りました。見ると先生がどもの桜の枝を無断で手折っておられます。もし御入用なれば隣家様の事ゆえ、根引きにでもして差し上げます。日頃から書にして曰く(しのたわまわく)の一つも心得てござる先生に似合わざる儀かと心得ます。言語同断、落花狼藉の所業というものです。その御返答を承って帰りますと、言って来なさい」

定吉 「誰がそれを言うんですか?」

主人 「お前に決まってるだろ」

定吉 「そんな長い口上なんかとても覚えられません」

主人 「情けない奴っちゃ。私が口移しで教えてあげるから」

定吉 「それだけはご勘弁を。お嬢様に代わってください」、まあ、いくら教えても口上をちゃんと覚えるような定吉ではないし、覚える気もなく混ぜっ返してばかりいる。ほどほどに切り上げて、定吉は学者との談判の全権大使として隣家へ乗り込んだ。

定吉 「お頼み申します」

学者 「どーれ、・・・何だ隣の小僧か。何か用か」

定吉 「今日は結構なお天気でござります。・・・先生が私どもの桜の枝を無断で手折っておられます・・・悋気様の事ゆえ、引きにしても差し上げます。・・・日頃から障子に海鼠(なまこ)を曝して・・・言語道断、らっぱ蠟石(ろうせき)の将棋というものです。御返答を承って帰ります」

学者 「何を訳の分らんことをごちゃごちゃと言っておる。わしの家の庭先へ塀を越えて無断で侵入した無遠慮な枝を折ったまでのこと。塀は国境、領土侵犯の自衛策を取ったまでのことよ。帰ってハイスベリの逆蛍にそう言え」

定吉 「ハイスベリの逆蛍って何ですか?」

学者 「頭がつるつるで蠅も滑って、尻でなく頭が光っているからだ。・・・どうせ帰っても先程わしが言ったことなど覚えてはしまい。今紙に書いてやるからそれを持ってハイスベリに渡せ」、学者先生がスラスラと書いた紙を持って定吉は店に戻った。

主人 「おお、ご苦労だった。返答はどうだった?謝っていたか?」

定吉「これをハイスベリに渡せって預かって来ました」

主人 「なになに、塀越しに隣りの庭へ出た花は 捻(ね)じよが手折(たお)ろがこちら任せじゃ」で、怒り心頭に発し、主人の逆蛍頭は昼間というのに爛々と輝きを増した。

 主人は知恵者の番頭を呼んで学者に仕返しする方法を考えてくれと頼む。一計を案じた番頭、すぐに親類縁者、長屋の連中、出入りの職人にお花見開催の手紙を出す。

 さて当日は昼間から大勢が飲めや歌えの大騒ぎ。芸者連も加わっての裸踊り、もう花見なんかはどうでもいい大盛り上がり。

 隣の学者先生、あまりのうるささに読書どころではない。塀の節穴から覗くと芸者たちが肌もあらわに踊っている。よだれが出そうになって食い入るように見ていると、節穴がパッと塞がれた。

 学者先生 見たい見たいで塀へよじ登って塀の上から顔を出すと、待ち構えていた番頭が大きな釘抜きで、学者先生のをグイッと捻じった。

学者 「痛っ、痛い!何をするか!」

番頭 「何も糞もあるかい。これがこないだの返歌じゃ。塀越しに隣の庭へ出たは じよが手折ろが こちら任せじゃ



   

      




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