「初夢・宝来」
★あらすじ 芝居好きの商家の旦那、初夢に舞台で役者となった夢を見る工夫はないかと番頭に相談する。
番頭 「昔、秦の始皇帝が不老不死の薬を求めて、沢山の宝物を船に積んで徐福を東方へ使いにやりました。その中に邯鄲(かんたん)の枕があって、なんでも二千年経った南天の幹で作ったものだそうで、この枕をして寝るといい夢を見られるといいます」
旦那 「そりゃあ、いい事を聞いたが、そんな枕なんぞ手に入りやしないよ」
番頭 「どうでしょう。邯鄲の枕の元になった南天の葉を枕の下にして寝たら・・・」、なるほどと旦那は番頭の勧めに従ったが、翌朝、
番頭 「おやようございます。どうです芝居の夢を見ましたか?」
旦那 「どうですもこうですもないよ。お前さんはとんだことを教えてくれた。南天の葉を枕の下に敷いて寝たら、一晩中、赤飯の夢を見たよ」
番頭 「それでは、昨晩店の者がいい初夢を見るために枕の下に敷いた宝船の絵を集めて、全部枕の下に敷いて寝たらどうでしょう」
旦那 「そんな使い古しの宝船の絵では効き目があるとも思えないが、まあ試しにやってみるか」、と宝船の絵をごっそり枕から布団の下に敷いて寝てしまった。しばらくすると、”高島屋”と、叫んだとたんに目が覚めた。番頭を呼んで、
旦那 「七福神が役者になって出て来る夢を見たよ」
番頭 「へえ、そりゃあよかったですね。どんな夢で?」
旦那 「まず幕が開くと、鶴平、亀平というやつが、宝来という宝物を取り合って舞い込んできて立ち回りだ。取り合っているうちに宝物は海に落ちてしまった。すると舞台に宝船が押し出されて来る。そこには今、海に落ちた宝物がちゃんと飾ってあって、まず弁天様が出て来て、これが大磯の虎だ。恵比寿と大黒が曾我十郎五郎、福禄寿が工藤、毘沙門が梶原、布袋が愛甲、寿老人が頼朝でおれの役だったんだが、いつものように芝居を見物している気になって思わず、”高島屋”と叫んで起きてしまった」
番頭 「それは惜しいことをなさいました。でもおめでたい夢でけっこうでした。そしてその宝物の宝来とはどんなものでしたんで?」
旦那 「破れた蚊帳(かや)だ」
番頭 「なんですか、それは?」
旦那 「吊(鶴)ると蚊(亀)めが舞い込んだ」
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虎御前の化粧井戸
虎御前は曽我兄弟の仇討ちに登場する白拍子、
鎌倉時代の遊女で、兄の曽我十郎の恋人。
化粧坂、虎御石などが「東海道(大磯宿)」に残る。
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