★あらすじ 清八の所へ喜六が遊びにやって来る。清八は友達の松ちゃんが宿替えをしたので、何か祝い物をしようと持ちかける。
清八は「安くて、手軽で、場がある物」がいいという。喜六はそれなら「カンナ屑」はどうかといい、向うには婆さんがいるから婆さんのためになる物がいいというと、喜六は棺桶を推奨する。何かビックリする物には爆弾と相変わらず話にならない。
清八は松ちゃんの女房が宿替え先のへっついの具合が悪い、と言うのを聞いていたので、へっついにしようという。ちょっと値が張るので二人には買えない。清八は丼池の道具屋の前に手頃なへっついが置いてあるからそれを夜中にちょっと失敬して来ようという。
いくら喜六でもそれは盗人と分かる。捕まったらどうなると聞くと、清八は堺の別荘行きだという。それもレンガつくりの立派な鉄格子付きで、向うからお迎えが来るという。やっと監獄と分かった喜六に清八は盗み出す段取りを説明し、日が暮れたらもう一度来るように言う。
日もとっぷりと暮れた頃、清八の表の戸をドンドン、「ぼちぼち行こかぁ〜丼池の道具屋へへっついさん盗みに行こぉ〜」と大声で喜六。静かにしろに「大丈夫、丼池までは聞こえへん」となるほどさすが喜六だ。
見ると紋付羽織袴の出で立ちだ。今夜の泥棒の開業式にと家主の留守を幸いに箪笥から借りて来たという。無論、こたつの上の猫には断って来たとか。
天秤棒と縄を持ち、怪しまれないよう仕事で重い物を運んでいるように、「ヨイヨイヨとサ、ヨイヨイヨとサ」と掛け声を掛けながら丼池の道具屋の前までやって来た。清八は「ここらで一服しょ〜か」と仕事に取り掛かるが、喜六は竹の垣をどけようとして石燈籠の頭を落として大きな音を出したり、長小便に行ったりでなかなか仕事がはかどらない。
やっと清八がへっついを持ち上げ、喜六が下に縄を通す所まで行ったが、暗くて縄がへっついの下に通らない。ついに持ちこたえられなくなって清八が手を放し、へっついが喜六の手の上にドスンと落ちた。
喜六 「痛ぁ〜! 痛ぁ〜! 痛ぁ〜!」
清八 「大きな声出すな」と喜六をどついた。
喜六 「何でへっつい落とされた上にどつかれなあかんねん、お前!そらわいはアホじゃ。アホやからこそ、夜中にこんなことしに来てるんやないかい」と盗人の仲間割れ、喧嘩が始まった。
あまりの騒々しさに道具屋の親父が出て来た。
親父 「何だお前ら、この夜更けに何さらしてんじゃい」
喜六 「わてが悪いことおまへんのや、この男がへっつい盗みに行こうと誘いまんのんで」
親父 「ははぁ〜、へっついさんだけに、お前が炊きつけられたんやな」
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