「姫かたり」


 
あらすじ 暮れの年の市で賑わう浅草観音の境内。「市ゃ安(ま)けた、市ゃ安(ま)けた、注連(しめ)か、飾りか、橙かぁ」の掛け声の中、お忍びだろうか、どこかの大名家の姫様風の美しい娘と、伴の侍と老女の三人。矢大臣門あたりまで来ると、癪でも起きたのか急に姫様が苦しみ出した。

 伴の侍は近くの竹井藪庵という医者の所へかつぎ込んだ。この医者は強欲で貧乏人などは診ず、藪医者のくせに高い診察代を取って、それを高利で貸してボロ儲けしている悪徳医者だ。そこへ金のありそうな格好な獲物が飛び込んできた。それもなんとも美しい娘で金ぼけ、色ぼけの藪庵は鼻の下を伸ばし、よだれを流している。

 伴の二人を隣室に控えさせ、いざ診察と娘の体へ手を伸ばすと、娘がしなだれ掛かってきた。こりゃあ絶好のチャンス到来と娘を抱きかかえると、「きゃーあれー、何をする!」と娘が叫んだ。何事かと踏み込んだ侍、「無礼者、婚礼前の姫君をはずかしめるとは何たる所業、不届き千万、一刀両断手打ちにしてくれる」といきり立っている。老女も懐剣をかまえ、「殿に申し分けが立たぬ、お前を刺し殺して、わたしもここで自害する」と迫って来る。

 命乞いする藪庵に侍は、手打ちにしてもこのことが外に漏れたら一大事と、金で解決を提案してきた。金なら乱診乱療で儲けた悪銭がいくらでもある。お互いの腹のさぐり合いの末、藪庵の首の代わり三百両で示談は成立した。

 姫様を守りながら三人は出て行った。しばらくして人気の少ない所へ来ると、三人とも「・・・こんな堅苦しいもの・・・」と言って武家風の着物を脱ぎ捨て、小ざっぱりした粋な身形(なり)に着替えた。姫をかたる窃盗一味だったのだ。三人組は、「・・・坊主軍鶏で精進落しだ・・・」と、悠々と去って行った。

 これを見ていた藪庵の所の弟子、一目散に戻って今の一部始終の有様を告げる。
唖然として表へ出て悔しがる藪庵の耳に、「医者負けた(市ゃまけた)、医者負けた(市ゃまけた)、姫かかたりか(注連か飾りか)・・・」

藪庵「うぅーん、大胆(橙)な・・・」


   
        



立川談志の『姫かたり【YouTube】




「浅草市」(広重・六十余州名所図会)

浅草寺



年の市」(『江戸名所図会』)


二天門 「説明板
もとは東照宮の随身門で矢大臣門と呼ばれていた。



二天門通り
正面奥が二天門





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