「突き落とし」


 
あらすじ 町内の若い連中が集まって、仲へでも繰り出そうかなんて言っているが、誰も吉原で遊べる金など持っていない。
 すると兄貴分の熊さんが、ただで吉原で遊べる計略があるという。他の連中は”ただ”と聞いて目の色が変わって大乗り気だ。熊さんは、「俺を棟梁にして大見世でお前らを遊ばせるという触れ込みで仲へ繰り込む。若い衆(し)が呼び込む小見世に上がり、一晩飲んで大騒ぎをして寝てしまう。・・・・」と、段取りを話し出す。熊さんは清ちゃん羽左衛門に似ているとおだたて、重要な役割を頼む。頭をポカポカ殴られるのだが、人のいい清ちゃんは承知する。

 悪だくみはすぐに決行される。棟梁気分の熊さんを筆頭に小見世に上がり、飲んで食って遊んで寝て、すべて予定どおりに運んで朝を迎えた。さあ、ここからが計略の本番だ。「昨晩はどうも・・・」と若い衆が勘定書を棟梁の所へ持ってきた。それには芳さんが土産にしたビール2打、金さんが洋品店から取り寄せた鳥打ち帽子や、寅さん臨月のかみさんが赤ちゃんを産んだ時のタライなんて変な物まで書かれている。どさくさ紛れに勝手なことしやがると思ったが、どうせ一銭も払う気などないからどうでもいい。棟梁は持ってもいない財布を探すふりをして、「酔ってすっかり忘れていたが、昨日家を出る時に清公に預けたはずだ」と言い、清さんを呼びにやる。

 さあ、羽左衛門の清さんの登場だ。「財布を預かった所を姉さんに見られ、飲み過ぎ遊び過ぎて大事な建前をすっぽかしたりしては事だからあたしが預かって置く。どうしても入り用の時はお前が取りに来るように言われました」と言うなり、棟梁(熊さん)は「なぜ今まで黙っていたんだ」と、清ちゃんの頭をポカポカポカ。おできのある方はぶたないという約束などとうに忘れている。

 止めに入った松ちゃんは、「俺たちが棟梁の家に取りに行けばいいのだが、今日は建前で、ここまで戻って来る余裕がない」と言い、若い衆に、「取りに行けば姉さんはたっぷりとお礼の小遣いをくれるはずだ」と、そそのかす。その気になって「付き馬」になった若い衆と、偽棟梁一行は店を出る。おはぐろどぶまで来た時、誰かが、「小便をすれば昨日誰が一番モテたか分かる」と言い出し、嫌がる若い衆も付き合わせての連れション、一列に並んで発車オーライとなった。すると誰かが後ろに回って若い衆をどぶへ突き落した。

 作戦成功と一斉に逃げる連中だが、清ちゃんがいない。若い衆と一緒にどぶにはまったのか、追いかけられて捕まってしまったのかと案じていると、ニコニコしながら後から駆けて来た。
清ちゃん 「若い衆がいい煙草入れを下げていたので、惜しいと思って抜いて来た」
これに味をしめた連中、「つぎは品川」と調子に乗るが、そうは問屋が卸さず、しくじりとなる。






       




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