★あらすじ やもめ暮らしの利吉のところへ長屋の家主が訪ねてくる。嫁をもらわないかという話だ。長屋に住んでいるお滝さんの亭主の講釈師、遊芸稼人の不動坊火焔が地方巡業先でチブスで死んだという。
骨を引取りに行ったりした費用がかさんで、不動坊の残した借金が35円。お滝さんはこの借金を結納代わりに払ってくれる人のところへ縁づきたいという。利吉もお滝さんのことは、以前からまんざらでもなかったので、二つ返事で喜んでお滝さんを嫁にとることにする。
利吉は今晩からお滝さんが来てくれるというので、さっぱりと小ぎれいするために風呂に行く。家の内からかんぬきを掛け、鉄びんをぶら下げて行く舞い上がりようだ。
洗い場で一人でお滝さんとのやりとりや、長屋の残りのやもめ三人の悪口などをしゃべり始める。これを聞いていたのが徳さん。鰐皮(わにがわ)の瓢箪の顔のようだといわれ、利吉に詰め寄る。利吉はその場をなんとか取りつくろい、そそくさと風呂から上がってしまう。
おさまらないのが徳さんだ。長屋に帰り、やもめ仲間の裕さん、新さんを集め利吉に仕返しをしようと相談を始める。今夜、不動坊火焔の幽霊を出し、二人をおどして髪をおろさせ坊主にして、明日の朝、皆で笑ってやろうという趣向だ。幽霊役には、不動坊の留守中にお滝さんを口説いて、ドンと肘鉄砲ではじかれた講釈師の軽田胴斉を引っ張り込むことにする。
幽霊を出す時の大鼓、幽霊火のアルコールなどの段取りをつけ、雪がちらつく中を出かける。利吉の家に梯子を掛けて上り、天窓から幽霊役の胴斉を腰からふんどしを5、6本つないで降ろす。
ここでアルコールの幽霊火が出るはずだが、アルコールをアンコロと聞き間違った、裕さんがビンにあんころを詰めて買ってきたので幽霊火は出るはずはない。徳さんからぼろくそに言われた裕さんも徳さんに言い返し、屋根の上で内輪もめが始まってしまった。
途中で宙吊りになったままの胴斉は、ふんどしが腹に食い込み痛がってわめき始めた。仕方ないので太鼓だけ打って、幽霊を下の部屋に降ろす。
幽霊(軽田胴斉) 「恨めしぃ〜、不動坊火焔や、わしが死んですぐによそへ嫁入りとはあんまり胴欲な。それが恨めしゅうて浮かばれん。二人とも髪を下ろして坊主になれ〜」
利吉 「お滝さん、恐がることおまへん。 あたしら恨まれるよなことしてまへんで。あんたが死んだあとでちゃんとした仲人を立ててもろた嫁はんですわ。 それにや、おまはんが残した35円の借金は、いったい誰が払ろたと思てんねん」
まことにごもっともな言い様で、幽霊の胴斉はたじたじで返す言葉もない。そして利吉は金で話をつけようと一人前5円、四人で20円で手を打つことになる。
金を受け取った幽霊の胴斉は金勘定をし、二人にいく久しゅう睦まじくなんて言っている。これを見ていた屋根上の連中は急いで幽霊を引上げようとふんどしをたぐったが、結び目が天窓の角へ食い込んでほどけてしまう。上の三人は地面に、幽霊は利吉の家の中に落っこちる。
利吉 「なんじゃお前は。」
幽霊(軽田胴斉) 「隣裏に住んでおります軽田胴斉という講釈師」
利吉 「講釈師、講釈師が幽霊のまねして銭取ったりするのんか」
幽霊(軽田胴斉) 「へえ、幽霊稼人(遊芸稼人)でおます」
|