「いびき茶屋」

 
あらすじ お茶屋遊びでしょちゅう相手を替える客を箒(ほうき)客という。
客 「どや、新しいおもろい妓(こ)は出てへんか」

女将 「また始まったなあ。あんたはんは箒やさかい、今までいろいろとお世話を・・・」

客 「そない言うけど、陽気な妓がええ言うたら、初めから終いまで喋り通しでかなわんのが来たがな。もっと静かでおとなしい妓を頼むと言うたら、何も話さない妓を世話したやろ。柔道三段ちゅう妓もいたな。何か芸はないか聞いたら、いきなり投げ飛ばされたがな」

女将 「しょうがおへんなあ、それなら近頃、田舎から来た妓がありますわ。雛鶴さん言うてな・・・」

客 「なるほど田舎から出て来たさかい(ひな・雛)か。ええ名前やないか」と、言うことで酒を飲みながら待っていると下に雛鶴が来たようで、

女将 「うちの古〜いお馴染みのお客さんやで」

雛鶴 「ならば、お馴染みの女郎衆もござりまっしゃろに、わしらのような者を、はあまあ呼んでいただきまして有難いこってござりまする。腕によ〜りをかけて尽くしますのでのう」と、二階まで聞える大きな声だ。

客 「・・・腕によ〜りをかけて尽くすちゅう言うとるぞ、えらいのが来よったなあ」

雛鶴 「ほならちょっくらまあ、二階へ参上いたしまして、また後ほど」

客 「・・・ずしん、ずしん言わして二階へ上がって来るがな。何が鶴やねん、こりゃ象やで・・・こらもう、布団被って寝ている方が無事やで」と、狸寝入りを決め込んだ。

雛鶴 「ちょっくらお邪魔をいたします。・・・ありゃまあ、お客さんもう寝てなさる。・・・ちょっと起きてくだせえ。ほんまに寝てなさるかのう・・・今夜もまた嫌われてしもうた。無理もないのう。顔も声も悪いわ、田舎言葉で、何の芸もありゃせんし、・・・こげな商売には向かんのう。でもわしじゃとて好き好んでこない所に来たわけじゃない。父(とと)さんがいか〜い借金こしれえたんで・・・、今頃故郷(くに)じゃみなどうしてるじゃろう。父さんは縄のうて、母(かか)さんは針仕事、妹はその横で糸車回しているじゃろのう。・・・あれ、このお客さん、膝立てて頭まで布団被ってなさるが、この膝から頭の格好が糸車によう似とる。そうじゃ、わしもこの糸車回して、故郷のこと偲んでみようかのう。(糸車を回す仕草で)♪寝たいねむた〜い、寝た夜は良かろう。しもて(予定の仕事を終えて)寝た夜はなお良かろう・・・・♪」

 すると客が糸車の回る音のように、「グ〜ゥ、グ〜ゥ」


 
  
  


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