「商売根問」

 
あらすじ 仕事もしないでぶらぶらしている喜六を横町の甚兵衛はんが説教する。「・・・人間とにかく働かないかんやないか。銭儲けが肝心や、お前は今までどんな仕事をしたことがあるのんや」

 喜六 「魚屋になって天秤棒担いで鯵(あじ)と鯖(さば)を売りに歩いたら、鯵がすぐ売れて鯖が残ったので、”鯵(味)ない鯖”と、売っていたら誰も買わなかった」

甚兵衛 「そりゃ、言葉が足らんのじゃ」

喜六 「茶と栗と柿と麩(ふ)を売りに出て、チャックリカキフッ、チャックリカキフッと、素っ頓狂の声を上げたので、子どもたち面白がってついて来て全然売れなかったので、ころっと仕事を変えて、爪楊枝削りちゅうのを一時やってた」

甚兵衛 「爪楊枝削りなんて儲けの薄い商売なんかで、飯は食えんやろう」

喜六 「茶も飲めん」と情けない。

喜六 「元手をかけてのも儲けようと、屋台を借りてうどん屋を始めたんで」

甚兵衛 「もうかったんか」

喜六 「それがあきまへんねん。イカキ(笊)にうどん玉入れて、湯切ってイカキを高く上げ過ぎてうどん玉を後ろに落としたり、低過ぎて犬の糞をすくってしまったりして、何度やってもどうしても上手くいかん。長く待たされた客は怒って屋台蹴倒して去んでしもて、えらい損で」

 今度はいろいろ考えて、を一度に五十羽、百羽捕まえる方法を考えたと言う。上町の知り合いの寺の庭に、みりん粕の伊丹のこぼれ梅をばらまく。雀たちが寄って来て、それを食べてほろ酔いになって眠くなる。そこへ落花生をばらまけば、雀たちはいい枕が来たと、そこでぐっすり寝てしまう。それを箒(ほおき)でかき集めるという。

甚兵衛 「ようそんな阿保なこと考えたな。ほんまにそれやったんか」

喜六 「やりましたがな。雀たちが酔ってきたところまでは上手いこと行ったんやど、落花生まいたらその音にびっくりして雀はみな逃げてしもうた」

 こぼれ梅と落花生代の損害を取り戻そうと、一羽でも金になるウグイス(鶯)捕獲作戦に出たと言う。絵の具と墨を腕に塗って、木の枝のように見せかけ、鶯を止らせ捕まえるという段取りだが、こんな阿保なことで捕まるような間抜けな鶯なんかいやしない。それどころか梯子から落ちてあばらを二本を折る大損害となった。

甚兵衛 「お前、損ばっかりやねん」、喜六は逆転の一発を狙い、天王寺動物園にもいないガタロ河童)を捕まえ、動物園に売り込もうと考えたと言う。

甚兵衛 「どこでそんなもん捕まえるんや」

喜六 「本町の橋の下でんがな。ガタロは人間のケツから生き血を吸ったり、尻子玉を抜くちゅうから、川の方にケツを出して、ガタロが手を伸ばしてきたら、その手を捕まえて引きずり上げ、縄で縛って動物園まで棒で担いで行くのやねん」

甚兵衛 「お前、ほんまにそんなことやったんか。えらい男や。それでガタロは来たんか」

喜六 「来まへんがな。何時間も尻丸出しで冷えて来て、ひょいと橋の上を見たら大勢の人ががやがや騒いでまんねん」

橋の上の人 「あんたそんなとこにしゃがんで、何をしてなはんねん」

喜六 「わたいこないしてガタロ釣ってまんねん言うたら、みんな笑いよって。その笑い声でふらついて後ろへドボーン。泳いでやっと向こう岸にたどり着いてはい上がろうとしたら、遊んでいた子らが寄って来て、ガタロが出たー、ガタロだーと、棒でど突かれた」


 

  

「ガタロ」は『代書屋』にも登場する。





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