「芋俵」
★あらすじ このところいい仕事にありつけない泥棒コンビ。兄貴分が三丁目の木綿問屋へ入り込む方策を思いつく。
弟分「あそこは金はたんとあるが、しまりが厳重でとても入れやしねえよ」、兄貴分「米俵に人間を入れてかついで行って、店の前まで来たら大声で芋屋に忘れ物をしたと言って、取りに行く間、店の片隅に置いといてくれと頼み、そのまま戻らない。夕方、店じまいになっても取りに来ないので、そのままにするわけにも行かず、土間かなんかに運んで置くだろう。夜中にみんな寝静まった頃、芋俵から抜け出して、中から心張棒をはずして開けてくれば俺たちは店の中に入って仕事ができる」という段取りだ。
弟分「そいつはうめえ考えだが、誰が芋俵へ入(へえ)るんだ?」、兄貴分「おめえだよ」、「芋俵は誰がかつぐんだ?」、「おれとおめえだ」、弟分「馬鹿いっちゃいけねえ、一人で俵へ入ったり、かついだり、できやしねえや」、兄貴分「不器用な野郎だ」だが、やっと兄貴分も状況が飲み込めて、もう一人俵に入る奴を生け捕ることにする。
ちょうど「やあ、泥棒」と大声で通りかかった、ちょっと足りない松公をおだてて、たんと分け前をやるからと旨いことを言って仲間に引き入れる。早速、松公を俵に入れ、二人がかついで木綿問屋の前まで行き、段取り通りに店に頼んで預かってもらい二人は帰ってしまう。
芋俵の中の松公は、店にバレると分け前がなくなってしまうので、じっと静かにしている。夕方、店じまいになって、番頭は定吉に芋俵を土間に入れて置くよう言いつける。定吉は芋俵は重いので横にしてコロコロ転がして行く。中から、”痛い”だの”目が回る”だのと聞こえたような気もしたが、お構いなしで土間に運び入れた。
芋俵の中の松公は横にされ、中は暖かいのでそのままぐっすり寝込んでしまった。夜も更けて、腹が減って我慢がならない定吉は台所に何かないか探しに行く。台所でまだ片付けている女中のおきよどんに、何か食べるものはないかとせびるが、おきよどんはあいにく今日は残飯のかけらもないという。
余計に腹が減ってきた定吉、芋俵のことを思い出す。こっそり芋を盗み出し食べようと、おきよどんと一緒に暗い土間に入る。手探りしながら芋俵にたどり着き、俵の横っ腹に手を突っ込んで芋を引きずりだそうとする。
定吉 「なんだかこのお芋おかしいや。柔らかくてへこんだるする・・・」
おきよどん 「柔らかくてへこむ? 腐ってるんじゃないか。握って見て堅いのをお出しよ」
定吉 「・・・このお芋はぽかぽか暖かいよ。焼き芋の俵かな?」
おきよどん 「焼き芋の俵なんぞあるもんかね」、定吉は俵の中を手で撫でたり、つついたり、握ったりしてかき回すものだから、中の松公はたまらない。お尻の回りを撫で回されてくすぐったくて我慢がならず、思はず「ブーッ」と大きいやつを一発。
定吉 「おや、気の早いお芋だ」
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