「万病円」


 
あらすじ 長屋に住んでいる浪人者、やたら威張っていて町内の嫌われ者だ。浪人はそんなことは屁とも思っちゃおらず、今日も湯屋の湯舟でフンドシを洗っている。客は頭に来たが何せ相手は侍、番台に文句を言って、湯銭を返して貰ってみんな出て行ってしまった。

 一人でのうのうと湯舟入っている浪人に、湯の主人(あるじ)が、「湯舟の中で下帯を洗っては困ります」と言うと、「何故いかん?」、「だって、汚いでしょう。下帯は下(しも)の物を包むんですからね」、浪人「それなら、その汚い下の物を貴様の湯屋では、湯舟に入る前に外して番台に預けねばならんのか」と、無茶な理屈をこねて、「明日も来るぞ、洗うぞ」と、出て行った。

 今度は小腹が減ったと餅屋に入った。小僧をからかって、力持ち、癇癪持ち、気持ち金持ちはあるかと、楽しんでいる。小僧も負けてなく、杵でつくから”木餅”、お代を頂戴するから”カネ餅”と応戦だ。鶯餅、桜餅、黄粉(きなこ)餅、よもぎ餅の値段を聞き、小僧が「どれを食べてもみな四文です」に、浪人は4つ、美味い美味いと食って四文置いて出て行こうとする。小僧が「4つ食べたので十六文です」、浪人「どれを食べても四文と言ったではないか。・・・客を誑(たぶら)かして商売をするのか」と、誑かしているのは自分なのを棚に上げている。

 次は古着屋だ。狐の顔の紋付、三角の座布団、綿入りの蚊帳とか無い物ばかり並べて困らせて、「・・・それらが手に入ったら置(と)っておけ、また来るぞ」と、帰ろうとするのを、古着屋「・・・泥棒!」、「泥棒とはなんだ!」、「いえ、どの方へお帰りかと・・・へへへ、盗っ人・・・」、「こら、盗っ人とは何だ」、「もそっとと言ったんで、へえ・・・屁でも嗅ぎやがれ・・・」、浪人「こら、今何と申した!」、「へい、お陰で・・・って言ったんでさあ」と、口達者だ。浪人も証拠がなく、言った言わないでは仕方ないので悔しいかな古着屋を後にした。

 憤懣やるかたない浪人は、敵討ちに紙屋に入った。「風の神(紙)はあるか」、紙屋は扇子を出して「風の紙です」、なるほどと浪人、これくらい分かるセンス(扇子)はあるか。福の神(紙)に紙屋は便所で使う拭くの紙を出す。紙は諦めた浪人、も置いてあるのに気づき、

浪人 「この薬は何という薬だ・・・」

紙屋 「万病円と申す、万病に効く薬です」

浪人 「なに、昔から病気は四百四病と決まっておる。病気が万もあるものか、不埒者め・・・」

紙屋 「それが、ございますんで、・・・」

浪人 「よーし、算盤(そろばん)入れるから数えてみろ、もし無かったらそこの銭箱貰って行くぞ」

紙屋 「へい、まず、日咳。肋()膜と四十肩、男の疝()気に女の癪()・・・」

浪人 「まだ、千と二百四十六だ」

紙屋 「ご婦人に産前産後(三千三十五)」

浪人 「うむ、大口が出たがまだまだだ」

紙屋 「一つでも腸満兆万)がございます」



      

        


三遊亭金馬(三代目)の『万病円【YouTube】




古着屋(「江戸商売図絵」三谷一馬)






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