★あらすじ 「一年を二十日で暮らすよい男」と川柳にも歌われた相撲取り。その最高位の横綱の中でも強かったのが太刀山峯右衛門。あんまり強すぎて人気がなく、ついた仇名が「四十五日」、一突き半(一月半)で相手を土俵から出してしまうからだ。
「太刀山は四十五日で今日も勝ち」で、これでは見ていて面白くもなんともない。ある場所で太刀山が一突きしたら相手がひょろひょろと土俵際に下がった。太刀山が前へ出て睨むと相手は怖くなって自分で後ろへ足を出し、新聞の決まり手は「睨み出し」。双葉山の69連勝は有名だが、太刀山は43連勝して一番負けて56連勝している。負けたのが西ノ海との一番で、これが八百長相撲(人情相撲)と疑われるような取り口だった。
大坂相撲の関取の稲川は江戸に出て来て初日から全勝だが、さっぱり人気が出ず贔屓(ひいき)もつかない。俺は江戸の水には合わんのか、大坂へ帰ろうかと思案していると、表から家の中を覗いている乞食がいる。若い者が銭をやって追い払おうとすると、乞食は稲川に会わせてくれという。
稲川は何か用事でもあるのかと、乞食を中に入れると、稲川が贔屓で食べてもらいたい物を持って来たという。稲川「誰であれ贔屓はありがたいもの、喜んで頂戴いたします」、乞食は竹の皮に包んだ蕎麦(そば)と、汚い茶碗に出しを入れて差し出し、「心ばかりのもんでどうかひとつ、関取に食っていただきてえんで」、稲川はさも美味そうに蕎麦を食べ始め、「大名衆でもお乞食(こも)さんでも、贔屓という二字に変わりはござりません。大坂へ帰って、江戸のおこもさんまでにもご贔屓になったといえば鼻が高こうござんす」と嬉し涙だ。
乞食「よく言っておくんなさった・・・今、口直しを」と外へ手を叩くと酒、肴(さかな)がどっさりと運ばれてきた。粋な身なりに早変わりした乞食は魚河岸の新井屋と名乗り、上方見物の時に稲川の相撲を見て惚れ込んだ。江戸へ出て来たことは知っていたが忙しくて見に行けずにいた。仲間から稲川は強いが人気がない。乞食が贔屓といって蕎麦を持って行ったら食うだろうか。皆が食わないという中、俺一人だけ食うと言った。仲間たちは「食ったら魚河岸がそろって贔屓にしてやる」で、こんな茶番をしたと明かす。
これが縁になって稲川は江戸に残り、たいそうな人気を得ました。
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