「藁人形」  

 
★あらすじ 托鉢して小金を貯め込んでいる西念日光道中千住、コツの女郎屋若松の前で女郎のおくまに呼び止められる。父親の命日なので供養の経をあげてくれという。

 西念は供養のあと精進落しの酒、料理を振舞われる。おくまは、こんな商売からは足を洗って早く堅気になり絵草紙屋でもやって、父親そっくりの西念を引取って面倒をみたいなどと、しみじみと話す。

 数日後、西念が若松屋の前へ通るとおくまが用事があると言って、西念を引き入れる。おくまは、絵草紙屋の掘り出し物が見つかったので、五十両貸してくれる所を探しているという。おくまのおいしい話に乗って、西念は貯め込んだ三十両を渡してしまう。

 雨が続き、西念は外へ托鉢に出られず、一文も無くなってしまう。どうしょうもなく、おくまの所へ二分ほど返してもらいに行くが、おくまは金など借りた覚えはないと言い、西念が詰め寄ると朋輩と賭けをしたのだという。小金を貯めている西念から金を巻き上げることができるかどうかという賭けだ。西念は怒っておくまの胸ぐらをつかむが、店の若い者に引きずり出され表へ放り出される。

 それっきり西念は長屋に閉じこもったきりで出てこない。七日後に喧嘩で伝馬町の牢に入っていた甥の甚吉が訪ねてくる。

 西念は小用に立つ時に、「そこにかかっている鍋の中を絶対に見るな」と言って外へ出る。見るなと言われれば見たくなるのが人情、甚吉は鍋の蓋を開けると。油の煮え立つ中に藁人形だ。

 帰ってきた西念にいきさつを聞いて、

甚吉 「伯父さん、この甚吉が聞いたからにゃ、この仕返し、一刻も経たねえうちに取ってやるから待っていろ。だが、昔から藁人形にゃあ五寸釘、なんだっておくまの胸へぶち込まねえんだ」

西念 「釘じゃきかねえ。奴はたしか、ぬか屋の娘だ」


                  



 西念は「黄金餅」にも登場する願人坊主の名です。ここでは、本名を安五郎といい、神田三河町(「大工調べ」の家主源六が住んでいた)の生まれで、若い時は、「けんか安」と言われた暴れ者、遊び人だったとか。

藁人形に五寸釘を打ち込むのは、丑の刻参りです。姿を人に見られず7日行えば、憎い相手を呪い殺せるという俗信です。甚吉が訪ねて来たのが満願の7日目、鍋の中を見られて西念が怒り、がっかりしたのもうなずけます。

もちろんサゲは、「糠(ぬか)に釘」、効き目が無いということ。



古今亭今輔(5代目)の『藁人形【YouTube】




絵草紙屋


  伝馬町処刑場跡
中央区小伝馬町3丁目の十思公園の所。《地図

甚吉が入っていた牢屋敷があった。吉田松陰もここで処刑された。
   コツ通り

コツの女郎は、落語『今戸の狐』にも登場する。こっちは年季(ねん)が明けて、客だった男と世帯を持って幸せに暮らしている、「コツの妻」だが。
  小塚原刑場跡の「首切地蔵尊」(寛保元年(1741年)建立) 《地図

江戸から明治までここでの刑死者は20万以上という。


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