「居酒屋」  三遊亭金馬(三代目)

 
★あらすじ 縄のれんを頭で分け居酒屋へ入ってきた客。醤油樽に腰掛け、店の小僧をからかいながら酒を飲み始める。

客  「小僧さん お酒持ってきておくれ」
小僧 「へーい お酒は澄んだんですか、濁ったんですか」

客  「おい、お前は人のガラを見るね。濁ったのなんか飲めるかよ、澄んだんだよ」
小僧 「へーい 上一升」

客 「おい、ちょっと待てよ。一合でいいんだよ」
小僧 「へい、これは景気でございます」

酒が出てきて、小僧に勺をさせ飲み始める。
客 「なんだかすっぱいね、この酒は。辛口、甘口の酒は随分飲んだけど、酸っぱ口の酒てのははじめてだ」
小僧 「名前があります」

客 「何て言うんだ。甲正宗 頭にくるような名前だな」
小僧 「お魚、何にしますか」

客 「何ができるんだ」
小僧 「できますものはつゆはしらたらこぶあんこうのようなもの、ぶりにおいもにすだこでございます エーイ」

客 「おっそろしく早いな、しまいのエーイだけ分かった。真ん中の方はさっぱり分からねえ。ゆっくりもう一度やってみろ」、小僧はゆっくり繰り返す。
小僧 「今申したものは何でもできます。何にいたしますか」

客 「今言ったものは何でもできるのか。じゃあすまないが、ようなものを一人前持って来い」
小僧 「そんなものできません。」

客 「今、言ったじゃねえか。もう一ぺんやってみろ」
小僧 「できますものはつゆはしらたらこぶあんこうのようなもの・・ へへえ、これは口癖ですよ」

客 「口癖でもいいから一人前持って来い」
小僧 「壁に書いてあるものなら何でもできます」

客 「一番最初の口の上てのは何だ」
小僧 「口上です」

客 「ああ、口上か、口上一人前持って来い」
小僧 「そんなものできません。その次ぎから何でもできます」

客 「その次ぎ、何だい とせうけ てえのは、食ったことがねえな」
小僧 「どじょう汁です。肩の所に濁りがうってあります。いろは48文字濁りをうてば皆、音が変わります」、客は、い・ろ・ま・ぬ・などに濁りをうって言ってみろとからかい、小僧が真赤な顔で苦労するのを面白がる。

小僧 「棚に並んでいるものなら何でもできます」

客 「ぶる下がっている大きな口の魚は何だ」
小僧 「あんこうでございます。鍋にいたしましてあんこう鍋」

客 「その隣にしるし半纏着て、出刃包丁持って考えているのは何だ」
小僧 「あれはうちの番頭でございます」

客 「あれ一人前こしらえて来いよ。番こう鍋てえのをこしらえてくれ」

 収録:昭和63年1月
NHKラジオ「語り芸の世界」


       


桂文朝の『居酒屋【YouTube】


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