★あらすじ ある店の番頭、悪酔いした時に介抱してくれた女中のお鍋と深い仲になってしまい、お鍋の腹は大きくなって産み月を迎えてしまった。
こんなことが大旦那に知れれば、今日まで苦労して勤めあげて来たことがすべて水の泡、店からも暇を出されるのも必定だ。困り果てた番頭は金物屋の佐助の所に相談に行く。佐助もお鍋さんのことを知っており、二十円の持参金付きなら貰ってくれる阿保な男もいるかもと、お鍋の嫁ぎ先探しを引き受ける。
番頭は知り合いの清さんの所へ、ある時払いの催促無しで用立てた二十円を回収に行く。いきなり今晩まで二十円返してくれと言われた清さん。むろんそんな金はすぐに出来るわけもなく、少し待ってくれと頼むが、番頭は今晩まで必ず返してくれと言って帰ってしまった。
一方、お鍋さんの貰い手を考えている佐助さん、やもめ暮らしで、金はなく、人のいい清さんに白羽の矢を立てて、早速清さんの所へやって来る。いきなり、「嫁はん貰い」、清さん「どんな、お女(ひと)だす」、佐助「今年二十二で気立てが良く、背はスラッと低く、色はくっきりと黒い。額がぐっと出て真ん中に鼻が陥没している。眼は小さいけど口は大きい。炊事、洗濯、裁縫は半人前・茶や花、琴三味線は嗜(たしな)まないが、その代わり飯、酒、煙草は四人前・・・・ただ、一つだけキズがあるんや」。
呆れて聞いている清さんに、佐助「お腹に子があって臨月なんや・・・、この女、嫁はんに貰う気ないか」、人をおちょくるのもいい加減にしろで、「・・・あんまり良え話でもおまへんが・・・」と断る清さんに、「こんな女でも二十円つけると言えば、誰ぞ貰うてくれるやろ・・・」と帰ろうとする佐助。
二十円と聞いて清さん「それ、貰いまひょ、いただきまひょ二十円と一緒に今晩・・・」と引き留める。今晩は早過ぎるという佐助だが、今晩でなければ貰はないと言い張る清さん。それなら今晩連れて来るということで、佐助は帰って行った。
しばらくすると番頭がまた二十円の催促に来る。清さん「へぇ、大丈夫で、晩方に取りに来ておくなはれ・・・」で、番頭は安心して帰って行った。
さあ、清さんは埃まみれの家の中を掃除し、風呂に行って嫁さんの来るのを待つばかり。夕暮れ方に佐助が花嫁(お鍋はん)を連れてやって来た。嫁さんには目もくれず清さん「あの二十円」と手を差し出す。佐助「いや、ちょっと都合があって、明日の朝ちゅうことになったんや。・・・仲人は宵の口というから、わてはこの辺でお開きということに・・・」と帰ってしまった。清さんとお鍋はんの新婚さんは、佐助はんが差し入れた酒と料理をたいらげ仲良く枕を並べて寝てしまった。
翌朝早く、番頭が「昨日の晩は手が離せずに来れなかった。朝起きて一番で飛んで来たんや。さあ二十円返して貰おうか」、清さん「わての方も今朝ちゅうことになたんです・・・」、番頭「そうか、大丈夫か。そなここで一服しながら待たせてもらおう」と居座り、安心したのか二十円必要のいきさつをべらべらと喋り出した。
手をつけて腹ませた女中のお鍋を、佐助と相談して二十円つけてどっかの阿呆に押し付けてしまおうという算段もばらしてしまった。
清さん 「・・・わても昨晩、佐助はんの世話で嫁を貰いましてな」
番頭 「へぇ、それはまた別の話で・・・」
清さん 「別やおまへん、腹ぼてで、二十円付きで・・・」
番頭 「ほたら・・・あの・・・お鍋」と、びっくり、どうしたものかと口ごもる。
番頭の手つき女とその子どもまで押し付けられて、怒り心頭と思いきや、
清さん、「まぁ、これも縁や、子どもの親がどこの馬の骨か分からんよりも、あんたの子と分かってりゃあ、また何ぞの時に頼りなる・・・」と、大人(たいじん)の心境か、番頭をゆすっているのか。
一件落着だが、さぁ、そうなると二十円のことだ。番頭→佐助はん→清さん→番頭だが、どれが尻やら頭やら。清さんは手ぬぐいを二十円に見立てて番頭に渡す。
番頭 「これを持って帰って佐助はんに渡すわ。ほたら佐助はんがここへ持ってくると、・・・これで片付くわけか」
清さん 「ほな、ぐるっと一回り、回りまんのやな」
番頭 「ほんに、金は天下の回りもんやなぁ」
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