「首屋」


 
あらすじ 番町あたりの旗本屋敷前を、「ええー、首屋でござい。首屋や首、生首の首屋でござい」と、通り過ぎる者がある。ある屋敷の殿さまがこれを耳に留め、不思議な稼業があるものだと思い、三太夫に首屋を庭先に連れて参れと命じた。切り戸から入って庭先に控えている首屋に、

殿様 「何の首を商っておるのじゃ」

首屋 「あたしの首でございます」

殿様 「・・・自分の首を売るとは、いかなる仔細があるのじゃ?」

首屋 「何をやっても上手く行かないので、いっそのこと首でも売ってしまおうかと・・・」

殿様 「ふーん、さようか。しからばいくらでそち首を売るのじゃ?」

首屋 「七両二分でお売りいたします」

殿様 「・・・その金子(きんす)は身寄りの者にでも届け使わすのか?」

首屋 「いいえ、あたくしが頂戴いたします」

殿様 「首を売ってしまえば、金子など必要あるまい。どうするのじゃ?」

首屋 「胴巻きに入れて腹に結び付け、地獄へ行きます。地獄の沙汰も金次第、赤鬼、青鬼、閻魔様も扱いが違ってくるだろうと思いますので」

殿様は三太夫に七両二分を首屋に払わせる。

首屋 「へいへい、ありがとうございます。では金は胴巻きにしまって、ぴったりと腹に押し付けて置きます」

殿様 「しからばこの新刀で首を打ち落とすぞ」

首屋 「へえ、まことに恐れ入りますが切り戸を開けて、もう一度冥土の土産に娑婆の様子を見せてください」、三太夫が切り戸を開けると、

殿様 「ではよいか。・・・念仏でも唱えたらどうじゃ」

首屋 「もう念仏も題目なんぞはけっこうです。すっぱりとおやりになってくださいませ」

殿さまが抜いた刀に中間(ちゅうげん)が水をかける。ぴゅーっと刀の水をはらった殿様は首屋の後ろに回って、「よいか」、「へえ」、「えっ!」と殿さまは刀を振り下ろした。

すると首屋はひらりと体をかわして、そばの風呂敷包から、張り子の首を放り出して、切り戸をくぐって逃げ出した。

殿様 「これ!、首屋!、これは張り子の首ではないか。買ったのはそちの首じゃ」

首屋 「へえ、これは看板でございます」



 
これは首地蔵                  張子の虎



 番町はすべて武家地で、大名屋敷のほかは、旗本、学芸者の屋敷だった。
「番町の番町知らず」というほど、入り組んでいて江戸で最も家探しの難しい所だった。番町御厩谷に塙保己一和学講談所があり、川柳に「番町で目あき盲に道を聞き」で、学問の道をかけている。
 番町と言えば『皿屋敷』、「首」がつく落語には『首提灯』・『ろくろ首』・『首の仕替え』・『首ったけ』などがある。



        




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