「除夜の雪」

 
あらすじ 大阪のミナミあたりのお寺、大晦日でなにかと忙しい。雪が降り続いて寒い夜で、今年で十一年この寺で修行している大念が、新米坊主の悦念珍念と庫裡で囲炉裏に火をたいて働いている。
大念 「おい、悦念、もっと炭入れんかい」

悦念 「もうなんぼも無いようになってしまいましたがな」

大念 「ケチな和尚やで・・・かまへん、かまへん、どんどんくべや。除夜の鐘撞かんならん」

悦念 「やっぱり百八つ撞きまんのか?」

大念 「そや、七、八十ついた頃は腹の底から冷えてきて、もうやめたろかと思うのやけど、近所に暇な奴がおって、あくる日、和尚さん、夕べは八十五しか撞かへんなんだなあ、ちゅうて物言いに来るがな・・・和尚は今時分、奥でチビチビやって、銭勘定やってけつかんねん。こっちはもう炭ものうなってガタガタ震えて仕事せんならん」

 すると寺へ入ってまだ三月の珍念が、「こっちのやつ、和尚さんが使てはる、堅炭の方を使いまひょか」
大念 「おお珍念、お前が持って来たんか、えらいやっちゃなあ」、褒められた珍念、和尚が飲んでいる上等の煎茶やら、和尚の寝酒の肴のイワシの丸干しまで差し出した。

大念 「おい、悦念、お前こいつにすぐに追い越されるぞ・・・わしが臭いのしないイワシの焼き方教えたるで、丸干しの焼き方も小坊主の大事な修業の一つやから・・・」と、和紙を水に濡らしてイワシに巻いて焼きだした。

 生臭坊主三人がほどよく焼けた丸干しを美味そうに頬張っていると、音もなく、「・・・今晩は・・・おじゃまを致します」と、若い女が入って来た。あわてて焼いた跡を隠して、

大念 「おお、伏見屋の御寮さんですかいな。まあ、こんな時間に雪の中を・・・お一人で?・・・」

御寮さん 「あの、ずっと以前にお借りしとおりました提灯をお返しにあがりましたん。年内にお返しせんならんと思てましたのに、つい忘れてしもうて・・・」

大念 「ああ、それはたいそうなお気づかいで恐れ入ります。丁稚さんでも使われたらよろしおましたのに。・・・えっ、もうお帰りで・・・それではどうぞ良いお年をお迎えくださいますように・・・」

 雪の中を帰って行く後ろ姿を見送って、大念は小坊主たちに話し始める。
大念 「お前たちも知ってるやろが、今の別嬪さんの伏見屋の御寮さん、気の毒や人やで。若旦那に見染められたが家が貧しいので先代のおかみさんが猛反対や。まあ、若旦那が頑張って一緒になって伏見屋に入れて嫁にしたんやが、ずぅ~っとおかみさんにいびられどうしや。世間では玉の輿に乗ったように思てるか知らんが、針のむしろへ座ったようなもんや。可哀想にまたやつれたようで寂しげやったなあ」と、感慨深げにしていると、

悦念 「兄弟子さん!今、本堂でがゴーンと鳴ったような・・・」

大念 「そうか、鳴ったか。和尚は酒飲んで金勘定や。鐘は勝手に鳴ったんや、檀家で誰か死んだんや」、三人が庫裡の外へ出てみるとあたりはきれいな雪明りで誰も本堂へ入った気配はない。

悦念 「あああぁ!、足跡が無い、・・・御寮さんの足跡が無い・・・」

大念 「そうか、おい悦念、珍念、怖がるな、震えるな。こんなこと一々怖がっていたら一人前の坊主にはなれんぞ」と、さすがは先輩の大念、自分も怖いのにええ格好していると、「今晩は、今晩は」と、伏見屋の番頭の藤助がやって来た。

藤助 「えらい夜分にどうも・・・えらいことで・・・うちの御寮さんが死にまして・・・首を吊って死にましたんや」と、泣き出さんばかり。

大念 「それは何時頃で・・・」

藤助 「・・・見つけたんは一時間ほど前で・・・あの、姑はんがいびり殺したんや・・・わてら御寮さんがいじめられるの見ていても何もでけへんで・・・」

大念 「やっぱりそうか・・・御寮さんは最前ここに来やはりましたで。あんたの足元の提灯・・・どうしても年の内に返したいと・・・」

藤助 「御寮さん、この寺へ来るんだけが楽しみやったんや。弟みたいな悦念さんや珍念さんとお喋りしたり、からこうたりして・・・そん時だけは明るい顔しよって・・・わしには娘はおらんへんけど、もしも娘があってもええとこへだけは嫁にやろまいと思うて・・・不縁のもと・・・ああ、除夜の鐘が鳴り出しましたなあ・・・」

大念 「珍念と悦念が打ち出しましたんや」

藤助 「さよか、この提灯、あっちの釣鐘、・・・釣り合わぬは不縁のもとだんなあ・・・」



   








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