「寿限無」


 
あらすじ お七夜になっても生まれた男の子の名前がついていない熊さん夫婦。熊さんはおかみさんの勧めでお寺の和尚に名前をつけてもらいに行く。

 熊さんは和尚に長生きする名前をつけてくれと頼む。和尚は鶴吉、亀吉などを提案するが、熊さんは乗り気になれない。
和尚 「経文の中にはめでたい文字がいくらでもある。寿限無はどうかな。寿限り無しで、死ぬ時がないということだ」

熊さん 「こりゃあいいや、ほかにはありませんか?」

和尚 「五劫(ごこう)のすりきれはどうじゃ。一劫というのは、三千年に一度、天人が天下って、下界の岩を衣で撫でるのだが、その岩を撫で尽くしてすり切れて無くなってしまうのを一劫という。それが五劫と言うから、何万年、何億年か数え尽くせない」

熊さん 「こりゃあ、ますますいいや。まだありますか?」

和尚 「海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)などはどうじゃ。海の砂利も水に棲む魚も、取り尽くすことが出来ないということでめでたいな」

熊さん 「へぇー、なるほど。もうありませんか?」

和尚 「水行末(すいぎょうまつ)、雲来末(うんらいまつ)、風来末(ふうらいまつ)なんてのもある。水の行く末、雲の行く末、風の行く末、いずれも果てしがなくてめでたいな」

熊さん 「ますます嬉しいねえ。まだありますか」

和尚 「食う寝るところに住むところ、人間、衣食住のうち、1つが欠けても生きてはいけない」

熊さん 「もうありませんか?」

和尚 「やぶらこうじのぶらこうじというのもある。藪柑子(やぶこうじ)という木があって、まことに丈夫で、春は若葉を生じ、夏は花咲き、秋は実を結び、冬は赤き色を添えて霜をしのぐめでたい木じゃ」

熊さん 「もっとありますか」

和尚 「パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナというのがあるな。昔、唐土にパイポという国があって、シューリンガンという王様とグーリンダイという王后の間に生まれた、ポンポコピーとポンポコナーという二人のお姫様が大そう長生きをした」

熊さん 「もうないでしょ」

和尚 「まだまだある。天長地久という文字で読んでも書いてもめでたい結構な字で、それをとって長久命(ちょうきゅうめい)、それに長く助けるという意味で長助なんていうのもいいな」

熊さん 「へえ、ありがとうございます。一番初めの寿限無から最後の長助まで紙に書いてくださいな」、

 和尚の書いてくれた紙を熊さんは読み上げる。「ええー、寿限無寿限無、五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助、うーん、こう並べてみるとみんなつけてえ名前ばかりですねえ」

 長屋に帰った熊さんはおかみさんを説き伏せて、恐ろしく長たらしい名前をつけてしまった。
さて、この名前が性(しょう)に合ったのか、仏法の功徳なのか寿限無寿限無・・・・・・長久命の長助ちゃんは病気一つすることもなく、すくすくと育って小学生になった。

 毎朝、友達の金坊が迎えに来る。「寿限無寿限無・・・・・・長助ちゃん、学校へ行こうよ」

かみさん 「金ちゃんいつもありがとう。寿限無寿限無・・・・長助や金ちゃんがお迎えに来たよ。早くしないと遅刻するよ」、金ちゃんはかみさんが呼んでいる間に「遅刻しちゃうから先に行くよ」といつも先に行ってしまう。

寿限無寿限無・・・・・・長助は父親譲りの腕白坊主で喧嘩が大好き。今日もぶたれた亀坊が頭に大きなこぶをつくって泣きながら言いつけに来た。「あーん、あーん、おばさんとこの寿限無寿限無・・・・・・長助ちゃんがあたいの頭をぶって、こんな大きなこぶこしらえたよ・・・あーん、あーん」

かみさん 「あらあら、またかい。すまなかったねえ亀ちゃん。お前さん、うちの寿限無寿限無・・・・・・長助が亀ちゃんの頭をぶってこぶこしらへたんだとさ」

熊さん 「じゃあなにか、うちの寿限無寿限無・・・・・・長助にぶたれてこぶができちまったのか。どれ、見せてみな。どこだこぶは?こぶなんかねえじゃあねえか」

亀坊 「あんまり名前が長いから、こぶが引っこんじゃった」



    



        




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