「鏡屋女房」

 
あらすじ 田舎から大阪見物にやって来た二人連れ。日本橋あたりの鏡屋の看板に「おんかころ」(御鏡処)と書いてある。かな文字で濁りはついていない。
茂作 「あの看板ちょいと見てみい。”オンカカミドコロ”としてあるぞ」

与平 「御嬶見(おんかかみ)どころ、大阪にはかかあ見せる奴があるのかいな。自分のかかあにの字つけるちゅうのもおかしな話じゃが」、店の中を覗くと若くて綺麗な女房さんが、きちんと座っている」

茂作 「これなら御つけるはずじゃ。あんな綺麗な女子(おなご)は国元にはちょっとおらんぞ」

与平 「ほんにこら役者より綺麗わい」、見物すまして村へ帰った二人の土産話は、鏡屋の女房のことばかり。

 翌年、茂作は大勢を引き連れ大阪見物、目指すは日本橋の鏡屋だ。
茂作 「ああ、この家じゃ。みんなちょっと見て行けぇ」、だが、鏡屋は引越してしまっていて、後には三味線屋で、次郎作が覗くと店の中にはお婆さんが座っている。

次郎作 「こらえらい婆さんが座っとるで。美しいかかあ様など居(お)らせんがな」、茂作も覗いて納得、「確かにこの家じゃったのだが。そこにおんかかみどころと書いてあるはずじゃ」と、看板を見ると、ことしゃみせん琴三味線)と書いてある。

茂作 「ああ、あかんは。今年は見せんのじゃ」



 
  


  

 「鏡屋」
 
 田舎から東京見物にやって来た吾平さん。浅草の馬道に鏡屋と畳屋が並んでいて、その間に二軒の看板が、「かかみやたたみや」と、一つになって掛かっている。

吾平 「東京には銭取ってかかあを見せる家があるようだ。ここの家は只見せるとあるが、どんなかかあだんべ」と、鏡屋の中を覗くと化粧をした綺麗なおかみさんが座っていた。なるほどいい女だ。吾平「これだから自慢で見せるだな。それも只見せるたあ、えれえこった」と、感心、納得。村に帰ってもこの話ばかり。

 翌年も吾平さん、大勢を引き連れて鏡屋の女房を見ようとやって来たが、鏡屋のところは三味線屋になっていて、「ことしゃみせん」(琴三味線)の看板が掛かっている。

吾平 「こりゃあだめだ。ここの家に違げえねえが、断り書きが出ている。今年ゃ見せんと」






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