「九段目」


 
あらすじ 町内の素人芝居忠臣蔵九段目を演(やる)ることになったが、前の晩に加古川本蔵役の小間物屋の清兵衛さんが倒れてしまった。

 代役に選ばれたのが医者の小泉熊山(ようざん)で、目が悪く按摩もやっている。芝居の世話方が粗筋(あらすじ)と段取りを説明し、稽古をつける。

世話方 「・・・本蔵が鼠色の着物、手甲脚絆で、尺八を吹いて出て来る。・・・」

熊山 「尺八というものは心得がございませんので、夜分に出ます按摩の笛ではいかがなもので・・・」

世話方 「あなたがなにも本当に尺八を吹かなくてもよろしいわけで、口のところへただ尺八を当てて、指先をこうちょいちょいと動かします・・・」

世話方 「・・・力弥が駆け寄って来て、落ちたを取ってあなたをさっと突いてくるから・・・あなたの脇腹にぶつっと槍が通ります」

熊山 「これは折角ながら、槍で突かれるということでは、お引き受けできかねます」

世話方 「・・・ただ、突く真似事をするだけですから・・・」

熊山 「・・・真似事ならば血は出ないので・・・」

世話方 「槍がきたなと思ったら脇腹をちょいと探ればぼっちがあります。こいつを破ると中から血綿てえものが出てきます」

世話方 「星をさいたる大星の言葉に本蔵・・・目を見開き・・・、ここで、ぐーっと目を開くんです」

熊山 「それはご無体な、眼はこれよりは開きませんので」と白眼を向いた。

世話方 「いえ、本当に開かなくてもいいんです。あなたがここで正面を切れば、ここで拍子木が、ばたーんと入りますから、目を開いたように見えるというやつで」

世話方 「・・・主人のぉーうっぷん晴らさんとぉー・・・、下腹へぐっと力を入れてね」

熊山 「・・・主人のうっ・・・ブぅー」と力み過ぎておならを放った。こんな調子だから世話人も大変だ。

 さあ、役者の頭数だけは何とか揃って芝居の幕が開いた。熊山先生、初舞台に舞い上がってしまってどじばかり。尺八を逆様に持って登場し、持ち直そうとして鼻を打って、鼻血が舞台へたらたら。力弥に槍で突かれて血が出る場面になると、血止めに煙草を使ったりしている。

客 「よう、本蔵、血止めの煙草は細かいぞ」

熊山(本蔵) 「なあに、手前切りで」



 サゲは、観客から芸が細かいという意味で声が掛かったのに、煙草が細かくきざんであると言われたと思って手前切りと答えた。手前切りとは自家製で、売品のきざみ煙草より荒くきざんである。




「忠臣蔵九段目 事切れようとする本蔵をあとに、
その袈裟や編笠で虚無僧に変装し、堺へと立つ由良助。
奥の座敷に加古川本蔵とその妻の戸無瀬、娘の小浪(広重画)
        


三遊亭圓生(六代目)の『九段目【YouTube】





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