「加賀の千代」


 
あらすじ 年も押し詰まって来たが、どうにもやりくり算段がつかない甚兵衛夫婦
女房 「どうするんだよ年が越せないじゃないか。ご隠居さんのところへ行ってお金借りて来ておくれよ」

甚兵衛 「この間借りたばかりじゃねえか。また貸してくれるだろうか?」

女房 「大丈夫だよ。隠居さんはお前を可愛がっているんだよ」

甚兵衛 「子どもでも女房でもないのにか」

女房 「女房、子どもばかりでなく犬や猫、生き物だけじゃなく朝顔のような植物も可愛がる人もいるよ。昔、加賀の千代という俳句の上手い女(ひと)が加賀の殿さまに招かれて、俳句を詠んで見ろと言われ即座に、殿さまの着物の家紋を見て、「見あぐれば匂いも高きの花」と詠んで、たいそうに褒められたそうだよ」

甚兵衛 「朝顔は出て来ないよ」

女房 「ある朝、千代さんが井戸に水を汲みに行くと、朝顔が釣瓶(つるべ)に巻きついて花を咲かせているので、近所で水を汲ませてもらって、朝顔につるべ取られてもらい水と詠んで朝顔を可愛がったというんだよ」

甚兵衛 「で、その朝顔はどうなったか知ってるか」

女房 「そんなこと知るもんかね」

甚兵衛 「次に水くみに来た人がこんな物、邪魔くさいってみんなむしり取っちまったよ」

女房 「つまらないこと言ってないで早く借りてお出でよ」

甚兵衛 「いくら借りればいいんだ」

女房 「二十円とお言いなよ。本当は八円五十銭くらいでいいんだけど、二十円と言って、そんなには貸せない半分の十円にしろなら、何とかなるじゃないか。はなから十円と行ったんじゃ五円しか貸してくれやしないよ。そうなりゃ帯に短したすきに長しになっちまうよ。饅頭を手土産に持ってお行きな、そうすりゃご隠居、お前を手ぶらでは帰さないだろうよ」、さすがは女房、上手い事考えると納得、饅頭を買って隠居の家に行くと、

隠居 「おお、甚兵衛さん、どうしたんだよ、しばらく顔を見せなかったじゃないか。あたしゃ心配で婆さんに様子を見に行かせようとしていたんだよ」と大歓迎。甚兵衛さんが手土産の饅頭を差し出すと、

隠居 「おや、珍しいね土産とは。ははぁ、暮れで行き詰ってお金でも借りに来たな」

甚兵衛 「当たり~!」

隠居 「いくら貸して欲しいんだ?」

甚兵衛 「びっくりしてションベンちびるな」

隠居 「そんなにか。百円か?」

甚兵衛 「そんな話の分からないこと・・・」

隠居 「二百円か?」

甚兵衛 「いい加減怒りますよ」

隠居 「そんな大金か。おい婆さんちょっと本家へ使いに行っておくれ・・・、で、本当はいくらいるんだ。遠慮しないではっきり言いなさい」

甚兵衛 「本当は八円五十銭だ」

隠居 「お~い、婆さん、本家へ行かなくともいいよ。馬鹿野郎、なぜはなから八円五十銭と言わなんだ」

甚兵衛 「それは素人のやること。最初から八円五十銭と言ったしにゃ、五円に値切られてしまうよ。そうなったら指に短しタヌキに長しだ」

隠居 「何をわけの分からないこと言ってるんだ。十円でいいんだな。では十円と・・・」、十円受け取って、

甚兵衛 「ありがと、やっぱり俺は朝顔だ」

隠居 「その朝顔てえのは何のことかな」

甚兵衛 「朝顔につるべ取られてもらい水だ」

隠居 「朝顔につるべ・・・、あぁ、加賀の千代か」

甚兵衛 「かか(嬶)の知恵だ」




  




金沢城跡(いもり坂上から) 「説明板
金沢市の坂➀



長町武家屋敷跡(長町1-3) 「説明板



加賀藩下屋敷跡(加賀公園)  《地図
手前に金沢小学校、この先に金沢橋もある。
石神井川②






表紙へ 演目表へ 次頁へ
アクセスカウンター