★あらすじ 年も押し詰まって来たが、どうにもやりくり算段がつかない甚兵衛夫婦。
女房 「どうするんだよ年が越せないじゃないか。ご隠居さんのところへ行ってお金借りて来ておくれよ」
甚兵衛 「この間借りたばかりじゃねえか。また貸してくれるだろうか?」
女房 「大丈夫だよ。隠居さんはお前を可愛がっているんだよ」
甚兵衛 「子どもでも女房でもないのにか」
女房 「女房、子どもばかりでなく犬や猫、生き物だけじゃなく朝顔のような植物も可愛がる人もいるよ。昔、加賀の千代という俳句の上手い女(ひと)が加賀の殿さまに招かれて、俳句を詠んで見ろと言われ即座に、殿さまの着物の家紋を見て、「見あぐれば匂いも高き梅の花」と詠んで、たいそうに褒められたそうだよ」
甚兵衛 「朝顔は出て来ないよ」
女房 「ある朝、千代さんが井戸に水を汲みに行くと、朝顔が釣瓶(つるべ)に巻きついて花を咲かせているので、近所で水を汲ませてもらって、”朝顔につるべ取られてもらい水”と詠んで朝顔を可愛がったというんだよ」
甚兵衛 「で、その朝顔はどうなったか知ってるか」
女房 「そんなこと知るもんかね」
甚兵衛 「次に水くみに来た人がこんな物、邪魔くさいってみんなむしり取っちまったよ」
女房 「つまらないこと言ってないで早く借りてお出でよ」
甚兵衛 「いくら借りればいいんだ」
女房 「二十円とお言いなよ。本当は八円五十銭くらいでいいんだけど、二十円と言って、”そんなには貸せない半分の十円にしろ”なら、何とかなるじゃないか。はなから十円と行ったんじゃ五円しか貸してくれやしないよ。そうなりゃ”帯に短したすきに長し”になっちまうよ。饅頭を手土産に持ってお行きな、そうすりゃご隠居、お前を手ぶらでは帰さないだろうよ」、さすがは女房、上手い事考えると納得、饅頭を買って隠居の家に行くと、
隠居 「おお、甚兵衛さん、どうしたんだよ、しばらく顔を見せなかったじゃないか。あたしゃ心配で婆さんに様子を見に行かせようとしていたんだよ」と大歓迎。甚兵衛さんが手土産の饅頭を差し出すと、
隠居 「おや、珍しいね土産とは。ははぁ、暮れで行き詰ってお金でも借りに来たな」
甚兵衛 「当たり~!」
隠居 「いくら貸して欲しいんだ?」
甚兵衛 「びっくりしてションベンちびるな」
隠居 「そんなにか。百円か?」
甚兵衛 「そんな話の分からないこと・・・」
隠居 「二百円か?」
甚兵衛 「いい加減怒りますよ」
隠居 「そんな大金か。おい婆さんちょっと本家へ使いに行っておくれ・・・、で、本当はいくらいるんだ。遠慮しないではっきり言いなさい」
甚兵衛 「本当は八円五十銭だ」
隠居 「お~い、婆さん、本家へ行かなくともいいよ。馬鹿野郎、なぜはなから八円五十銭と言わなんだ」
甚兵衛 「それは素人のやること。最初から八円五十銭と言ったしにゃ、五円に値切られてしまうよ。そうなったら”指に短しタヌキに長し”だ」
隠居 「何をわけの分からないこと言ってるんだ。十円でいいんだな。では十円と・・・」、十円受け取って、
甚兵衛 「ありがと、やっぱり俺は朝顔だ」
隠居 「その朝顔てえのは何のことかな」
甚兵衛 「”朝顔につるべ取られてもらい水”だ」
隠居 「朝顔につるべ・・・、あぁ、加賀の千代か」
甚兵衛 「かか(嬶)の知恵だ」
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