「生兵法」


 
あらすじ 源ちゃんと梅ちゃんが歩いていると、
梅 「向こうから来た見たような顔・・・、どうも思い出せねえ・・・」

源 「・・・あれはおめえ、伊勢六の若旦那だ」

梅 「へえ~、伊勢六の若旦那ってえのは、色白の優男(やさおとこ)だったんじゃねえか?」

源 「ちょいと前まではそうだったが、生っ白くて腕力のない男は女にもてないと、すっかり宗旨変えして、横丁の剣道の道場で、朝から晩まで、やっとう、やっとうのご稽古。ご飯のおかずだって納豆しか食わねえ」

梅 「たいそうな凝り固まりだね」

源 「そうよ、つんつるてんの着物で袴はいて、鉄扇持って歩いてるんだ。先生と呼ばなくちゃ返事をしねえんだ・・・先生!どちらへ」

若旦那 「これはこれは、ご両所にはいずれへ?」

源 「ご両所ときましたよ。先生は近頃、すっかり剣道のほうを、ご勉強だそうで」

若旦那 「おかげでもう免許皆伝の腕前だ」

源 「へえ、筋がいいんですねえ。腕前なんぞしたことがありますか?」

若旦那 「むろんある。二、三日以前であるかな、若者二人が、この先の四ツ角で拙者へどんとぶっつかっ来おった。言い争ううちに二人して拙者に打ちかかって参った。ひらりと体をかわしておいてビシッと打ち据え、今一名の若者も肩にかついで投げ飛ばした」

源 「その若者てえのはいくつぐらいで・・・」

若旦那 「三つか四つで兄弟のようだった」

源 「いやですよ。こっちぁ本気で聞いてるんだから」

若旦那 「ハハハッ、これは冗談、ここでひとつ真面目に、免許皆伝の奥義をご覧に入れよう」

源 「へえ、奥義ですか・・・」

若旦那 「気合もろともこの鉄扇の陰へ拙者の体が隠れちまうという、雲隠れの術だ。よ~く見ておれよ、エイッエイッ!・・・どうだ見えまい」

源 「見えます、見えます」

若旦那 「気合が足りなかったようだ。エエエイのエイヤッ!どうじゃ見えまい」

源 「さっきよりよく見えます」

若旦那 「ご両所、目をつぶって・・・」

源 「あたりめえだよ、目つぶってて見えるわけがねえじゃねえか・・・いやだよ、先生」

若旦那 「源ちゃん、君は力があるそうだな」

源 「へい、自慢じゃないが、素人相撲じゃ大関で」

若旦那 「拙者の胸倉を敵だと思って取って参れ。遠慮はいらん。これをわずか二本の指、人差指と親指で、君の腕をパッとほどく。これが免許皆伝だ」

源 「じゃあ、先生いきますよ」と胸倉に手を掛けると、

若旦那 「君、あまり力ないね」

源 「まだ握っただけです・・・力入れますよ・・・」

若旦那 「くッくッくッ・・・おいこら、おい、死んじまう、・・・こら、離さねえか・・・こうなれば奥の手の野猿流だ」と、思い切り源ちゃんの腕を引っ掻いた。

源 「痛っ、痛いよ、すごい爪だね猿より伸びてるよ。よくわかりました。もう免許皆伝、結構です」

若旦那 「まあ、そう言わずに。おや、梅ちゃん懐に何か持ってるね」

梅 「あぁ、これ縁日で買ったハツカネズミで」

若旦那 「ちょうどいい、蘇生術をご覧にいれよう。握り殺してすぐにパッと生き返らせる技だ」

梅 「あんまりあてに出来ませんね、先生の免許皆伝は。生き返らなかったら弁償ですよ」と、一匹渡した。

若旦那 「心配無用、ちょっと握ればこのとおり、死んで・・・こいつはなかなか元気なやっちゃな。逃げようとしている。・・・そうはいくものか」と、思い切り握ったものだから、ネズミは動かなくなってしまった。

梅 「あ~あ、哀れな姿になっちまったよ。これが生き返りますか」

若旦那 「むろん生き返るぞ。急所に鯖(さば)を入れて・・・鰹(活を)入れれば・・・エイエイヤー、さあ起きろ!」

源 「起きないよそりゃ、それ死んじゃってるんだ、寝てるんじゃないんだから」

若旦那 「ははぁ、こりゃァ(きん)が弱いな、こいつは・・・エエイッ、タァーッ!」

梅 「ああぁ、しちゃったよ。酷いねこりゃ、生類憐みの令で罰せられるよ。動物愛護団体も黙っちゃいないよ」

源 「ああ、目が飛び出しちゃったよ」

若旦那 「心配するな。来年になりゃ新芽が出らぁ」



  


  




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