「開帳(の雪隠)」


 
あらすじ ある時、貧乏神開帳というのがあった。瓦版に、「参拝しない人の所へは、こちらから出向く」と刷られているので、貧乏神に来られちゃたまらんと大勢の人が押し寄せて、大盛況で神社は大儲け。仲間に誘われて仕方がなく参拝に出掛け、お札・お守りも買う羽目になってしまった男。帰りに「こんな物、ご利益なんぞあるもんか」と、ドブに投げ捨ててしまった。
 仲間からそんなことすると貧乏神の罰(ばち)が当たるぞとおどされたが、なんと商売がうまく当たり大金持ちになってしまった。なるほど貧乏神の罰が当たったようで。

 両国回向院の開帳が始まった。境内一帯は参拝人でごった返している。熊さんは一儲けしようと考え、相棒の八さんと参道の近くに粗末な雪隠(せっちん)を作って四文で貸し出すことにした。これがうまく当たって三日目までは、借り手がどんどんやって来て大儲け。ところが四日目からは客足がバッタリ途絶えた。 ついにウン(運)もつきたかと諦め半分でいたが、手前に小綺麗な雪隠ができて、ここも四文で貸し出していることが分かった。

 何とか巻き返し策は無いものかと、熊さんはない知恵を絞った。翌朝、熊さんはどうせ閑(ひま)だろうと八さんだけ残して外へ出て行った。しばらくすると珍しく客がやって来た。四文もらって八さん、「どうぞごゆっくりなさい。中で昼寝でもしてください」とヤケクソ半分だが、すぐに次の客が来て、後から後からの行列となっていった。

 この忙しいのに熊さんは何処(どこ)をほっつき歩ているんだろうと思っているうちに、夕方になって店じまい。そこへ涼しい顔をして熊さんが帰って来た。だいぶ儲かったので怒りも半減だが、

八さん 「どこで遊んでいたんだよ。忙しくて、忙しくて、おらぁ、てんてこ舞いだったぜ」

熊さん 「俺が出て行ってから客がウンと来たろう」

八さん 「来たから、一人で大変だったんだよ」

熊さん 「なぜ、客が来たと思う」

八さん 「どうして?」

熊さん 「四文払って、今まで向こうの雪隠にしゃがんでいたんだ」



東都名所 両国回向院境内全図

回向院開帳参(『江戸名所図会』)
        


三遊亭圓生の『開帳の雪隠【YouTube】

   

丸井伊藤商店 

敷地内には貧乏神神社が祀られている。不愛想で有名な看板犬?が見張っている。

甲州街道(金沢宿→下諏訪宿』

両国の回向院境内(墨田区両国2丁目)

明暦3年(1657)の振袖火事の死者を弔うために幕府が建立した。
  鼠小僧次郎吉の墓(回向院境内)。

墓石のカケラを持っていると、ご利益が厚いというので墓石を削って持って行く者があとを絶たない。前の白っぽい石は、削りようの墓石。親切にも左の立札に、「こちらの「お前立ち」をお削りください」と書いてある。後ろに過去に削られてしまった沢山の鼠小僧の墓がある。


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