★あらすじ 毎年、花見時になると鶴満寺の境内は見物客が押し寄せてやかましく、酔客などもいて境内は荒らされてしまう。そこで出掛ける前に和尚は権助を呼んで、
和尚 「風流人や歌詠みなら庭に入れてもいいが、酒、肴を持ち込んで、境内でドンチャン騒ぎをやるような花見の客を入れてはいかん」、「へえ、わかりやした」。和尚が出掛けると権助の顔見知りが何人か連れて花見にやって来た。
権助 「そりゃだめだ。和尚さんにきつう言われたさかいに、花見の客は入れるちゅうことはできん」
花見客 「なにもせえへんがな。酒なんぞ飲まんで静かに花見させてもらうだけやがな。・・・なあ、ちょっとこれで・・・」と、権助に百文を渡した。
権助 「そうか、ならば花見るだけなら・・・」と、権助は庭に入れた。
花見客 「ほう、咲いてますなぁ。・・・けど、やっぱり、”酒なくて・・・”、なんて言うくらいやし、権助さん、静かに飲むくらいはかまへんやろ」
権助 「そんな、酒なんか飲んでもろたら困る・・・」
花見客 「まあ、そないこと言わずに・・・」と、また一朱銀を権助の袂へ。
権助 「まあ、静かに飲むくらいやったら、かまへんが、唄、唄うたり、太鼓叩いたり、三味線なんぞ弾いてもろたらあかへんで」
花見客 「そんなことせやへん。花を眺めて、こう静かに飲むだけや。・・・あんたも飲みなはれ」
権助 「そんな・・・そや、一杯だけやで」、酒好きな権助さん、一杯で終わるはずもなく、二杯、三杯と勧められ、ついには手酌で飲み始めだいぶ酔っぱらてしまった。
権助 「前の和尚は良かったが、今度の和尚はうるさいばかりで、融通のきかん坊主や。だいたい修行がなっちょらんのや・・・おい、そこに重箱あるやないか、なんで出さんのや。肴がなかったら酒飲まれへんがな」、「かまへんか?」
権助 「かまへん、かまへん、三味線もあるやないか、・・・おい、そこの姉さんちょっくら弾いてみろ」」、すっかり盛り上がってのドンチャン騒ぎになってしまった。
べろべろに酔った権助を残して客たちは満足げに帰って行った。しばらくして戻って来た和尚、庭は散らかり、桜の枝は折られ、その下で権助が酔って寝ている。
和尚 「これ!起きんかい!わしがあれほど言うたやろ。歌詠みや風流人ならええけど、・・・これが歌詠みや風流人のすることかいな・・・」
権助 「いやぁ、風流人だ、歌も詠んだ」
和尚 「ならばどんな歌、詠んだか言うてみい」
権助 「・・・”花の色は移りにけるないたずらに 我が身世にふるながめせしまに”」
和尚 「こら、お前、それは百人一首やないか!」
権助 「そや、初めが百で、あとが一朱や」
|