「二階ぞめき」


 
あらすじ 毎晩の吉原通いで勘当寸前の若旦那
番頭 「大旦那が怒るのは無理はありませんよ。・・・じゃあどうです。その女を身請けして、どっかに置いて、大旦那に内緒で昼間逢ったらいいでしょう」

若旦那 「おれは女なんぞはどうでもいいんだ。吉原のあの気分がたまらなく好きなんだよ」

番頭 「じゃあ、ただ、ひやかしているのが好きなんで?」

若旦那 「そう、吉原を家に持ってきてくれりゃあ出掛けないよ」

番頭 「なるほど、それじゃ、お店の二階に吉原をこしらえて、そこをひやかしたらどうです」、ということで出入りの棟梁に頼んで、二階に吉原もどきを作っちまった。

番頭 「若旦那、吉原できましたよ。ゆっくりとひやかしてらっしゃい。遅くなったってかまわないんですから」

若旦那 「そうか、じゃ着替えてから行ってくるからな」

番頭 「今の着物だっていいでしょう」

若旦那 「そうはいかねえんだ。この古渡唐桟でなきゃ、ひやかしはだめだ」

番頭 「袂(たもと)はないんですか、その着物には」

若旦那 「ひやかしている時に誰かと突き当たれば喧嘩になるだろ。なぐられる前に、こっちからポカッてやるんだ。袂があっちゃ手がすぐ出ないから、こうして平袖にしとくんだよ」

番頭 「手ぬぐいで頬っかむりなんかして・・・」

若旦那 「夜露に濡れるのは毒なんだよ」

番頭 「二階に夜露なんぞは・・・まぁ、お好きなように、ひやかして(=ぞめき)行ってらっしゃい」

若旦那 「おぉ、よくできたねえ、吉原そっくりだよ。・・・でも、誰もいないね。もう大引け過ぎだな。犬の遠吠えに、按摩の笛なんか聞こえてきたりして、何だい?、
今夜ひとつ上がってくださいな いやだよ。そんなこと言わないで いやだよ。
花魁もああやって心配してますから いやだって言うんだよ、うるせえなあ。 
ねえ、ゆうべもおとついもお茶ひいてるんだよ。上がっておくれな、お願いだからさ いやだよ。
ちょいと様子のいいお兄さん、上がんないの、お足ないのかい、一文無しかい 
うるせえやい、一文無しとは何でえ。気に入んないから上がんねえんだ。
大きなこと言うない。気に入ったって上がれないんだろ。銭無しめ 
こっちで気に入りゃあ身請けしてやらぁ。
大きな口きくんじゃないよ。銭無し野郎 何を、こん畜生、ぶん殴るぞ・・・、
おい、よせやい、相手は女じゃねえか 何だてめえは、どけ、どけよ!
よし、おれが相手だ 
面白え、包丁でも何でも持って来い。さあ、殺すんなら殺せ。殺さなくってよ・・・」、若旦那は無我夢中、忘我、妄想の世界にどっぷりとつかってしまった。

大旦那 「なんだ二階の騒ぎは・・・おぉ、一人じゃないぞ。喧嘩だ・・・定吉、定吉・・・二階へ行って大きな声よせって言ってこい」、二階に上がって、

定吉 「若旦那、若旦那、・・・あれ、一人で喧嘩してるよ。自分で自分の胸倉つかんだりして・・・若旦那、若旦那」

若旦那 「うるせえや!誰が止めたって、てめえなんぞ生かしちゃおかねえぞ。・・・誰だ、誰だ、肩なんぞ叩きやがって。・・・邪魔だてするんじゃねえや・・・なんだ、定吉か。悪いとこで出会っちまったなあ。・・・おい、定吉、家に帰っても、ここでおれに会ったことを親父に言うなよ」


  
吉原大門

新吉原
    

花魁・吉原(職人尽絵詞)


  

584(2017・11)



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