★あらすじ 毎晩の吉原通いで勘当寸前の若旦那。
番頭 「大旦那が怒るのは無理はありませんよ。・・・じゃあどうです。その女を身請けして、どっかに置いて、大旦那に内緒で昼間逢ったらいいでしょう」
若旦那 「おれは女なんぞはどうでもいいんだ。吉原のあの気分がたまらなく好きなんだよ」
番頭 「じゃあ、ただ、ひやかしているのが好きなんで?」
若旦那 「そう、吉原を家に持ってきてくれりゃあ出掛けないよ」
番頭 「なるほど、それじゃ、お店の二階に吉原をこしらえて、そこをひやかしたらどうです」、ということで出入りの棟梁に頼んで、二階に吉原もどきを作っちまった。
番頭 「若旦那、吉原できましたよ。ゆっくりとひやかしてらっしゃい。遅くなったってかまわないんですから」
若旦那 「そうか、じゃ着替えてから行ってくるからな」
番頭 「今の着物だっていいでしょう」
若旦那 「そうはいかねえんだ。この古渡唐桟でなきゃ、ひやかしはだめだ」
番頭 「袂(たもと)はないんですか、その着物には」
若旦那 「ひやかしている時に誰かと突き当たれば喧嘩になるだろ。なぐられる前に、こっちからポカッてやるんだ。袂があっちゃ手がすぐ出ないから、こうして平袖にしとくんだよ」
番頭 「手ぬぐいで頬っかむりなんかして・・・」
若旦那 「夜露に濡れるのは毒なんだよ」
番頭 「二階に夜露なんぞは・・・まぁ、お好きなように、ひやかして(=ぞめき)行ってらっしゃい」
若旦那 「おぉ、よくできたねえ、吉原そっくりだよ。・・・でも、誰もいないね。もう大引け過ぎだな。犬の遠吠えに、按摩の笛なんか聞こえてきたりして、何だい?、
”今夜ひとつ上がってくださいな” いやだよ。”そんなこと言わないで” いやだよ。
”花魁もああやって心配してますから” いやだって言うんだよ、うるせえなあ。
”ねえ、ゆうべもおとついもお茶ひいてるんだよ。上がっておくれな、お願いだからさ” いやだよ。
”ちょいと様子のいいお兄さん、上がんないの、お足ないのかい、一文無しかい”
うるせえやい、一文無しとは何でえ。気に入んないから上がんねえんだ。
”大きなこと言うない。気に入ったって上がれないんだろ。銭無しめ”
こっちで気に入りゃあ身請けしてやらぁ。
”大きな口きくんじゃないよ。銭無し野郎” 何を、こん畜生、ぶん殴るぞ・・・、
”おい、よせやい、相手は女じゃねえか” 何だてめえは、どけ、どけよ!
”よし、おれが相手だ”
面白え、包丁でも何でも持って来い。さあ、殺すんなら殺せ。”殺さなくってよ”・・・」、若旦那は無我夢中、忘我、妄想の世界にどっぷりとつかってしまった。
大旦那 「なんだ二階の騒ぎは・・・おぉ、一人じゃないぞ。喧嘩だ・・・定吉、定吉・・・二階へ行って大きな声よせって言ってこい」、二階に上がって、
定吉 「若旦那、若旦那、・・・あれ、一人で喧嘩してるよ。自分で自分の胸倉つかんだりして・・・若旦那、若旦那」
若旦那 「うるせえや!誰が止めたって、てめえなんぞ生かしちゃおかねえぞ。・・・誰だ、誰だ、肩なんぞ叩きやがって。・・・邪魔だてするんじゃねえや・・・なんだ、定吉か。悪いとこで出会っちまったなあ。・・・おい、定吉、家に帰っても、ここでおれに会ったことを親父に言うなよ」
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