★あらすじ 昔、ある村には便所がなかった。川辺に縄でつながれた板が浮いていて、この上で用を足して流していた。ここを閑所場(カンジョ場・カンジョウ場)、板をカンジョウ板、用を足すことをカンジョウをぶつと言った。
ある時、村人が江戸見物に来た。用を足したくなったが、旅籠屋にもあたりにもカンジョウ場らしき所がないので、番頭を呼ぶ。
村人 「カンジョウぶたしてくれ」
番頭 「お勘定ならお帰りの時に、まとめて頂戴いたします」
村人 「帰る時まではとても我慢ができねえ。日に一度はカンジョウをぶちたい」
番頭 「日に一度?それはご面倒ではございませんか」
村人 「面倒は面倒だが、日に一度はカンジョウをぶたないと心持が悪い」
番頭 「さすが、田舎のお方はお堅うございますねぇ」
村人 「硬いがどうかは、ぶって見なけりゃ分からねぇが」
番頭 「分かりました。それならいつでもどうぞ」
村人 「で、カンジョウ場はどこだ?」
番頭 「入口の近くに帳場がございます」
村人 「あんなとこだと大勢の人に見られるべえ」
番頭 「別に見られてどうこういうものでもないでしょうが、それならどこでもお好きな所で構いません」
村人 「どこでもと言われてもなぁ」
番頭 「それでは、お部屋でどうぞ」
村人 「そうかね、じゃあカンジョウ板持って来てくれ」
番頭 「カンジョウ板?」、番頭は首をひねったが、勘定する物と思ってそろばんを持って来る。
村人 「えぇ! こんな小せえ物でカンジョウぶつかね」
番頭 「どんな大きな勘定でも大丈夫です。ここからはみ出すようなことは決してございません」
村人 「そういうもんかね。じゃあ、ぶって見よう。ぶったカンジョウはどうするかね?」
番頭 「こちらから頂戴に上がります」
村人 「どうやって持って行くかね」
番頭 「この手で頂いて中身を確認してから懐にしまって帳場へ持って参ります」
村人 「随分と村とは違うが、それが江戸の仕来りなら、それでカンジョウをぶって見ましょ」
番頭 「それでは終わりましたらお呼びくださいませ」と、部屋から出て行った。村人はさすがに部屋の中ではやりにくく、そろばんを持って裏の廊下に出て、人がいないのを確かめ、そろばんを裏返しに置いて着物をまくり始めたが、裾がそろばんの角に引っかかってゴロゴロゴロと動いて行った。
村人 「おぉ、さすがは江戸だ。カンジョウ板が車仕掛けになってる」
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