「かんしゃく」


 
あらすじ 大富豪のたいそうな癇癪持ちの旦那が自家用車で帰宅だが、誰も出迎えていない。玄関を入って、「おいこら誰もおらんのか」、「箒が立てかけてあるぞ」、「下駄が散らばっているぞ」、「蜘蛛の巣が張っているぞ」、「帽子掛けが曲がっているぞ」、「庭に水が撒いてないぞ」・・・・大声で怒鳴り散らして行く。

 部屋に入ると「布団、布団、座布団がないぞ」、「暑いぞ団扇が出てないぞ」、「額縁が曲がってるぞ」、「床の間の花が曲がってるぞ」、「おい、静子何してんだ、早くお茶を持って来い」・・・癇癪の連射砲は止まらない。

 そこへ社員の山田君が社用でやって来た。旦那は夕飯を食べて行けと言う。その間にも旦那の癇癪は収まらずに静子さんに当たり散らしている。

 山田君は静子さんが可哀そうになったのか、旦那のブチ切れに呆れたのか、「今日は、社長は御機嫌が悪いようなので、また出直して参ります」と、帰ってしまった。

 旦那は静子さんに、「なぜ、俺に断りもなくなぜ帰した」、「山田も俺に黙って帰るとは無礼な奴だ。あんな社員は首だ!」と、旦那の癇癪はさらにエスカレート。もうこんな家にはいられないと、
静子さん 「お暇をいただきたい」切り出した。

旦那 「俺が追い出したんじゃないぞ、お前から言い出したんだぞ・・・」と、動じないのか負け惜しみの強がりなのか。

 実家に帰った静子さんに母親は同情するが、甘やかしてばかりいる母親を制して、
父親 「・・・煙くとも末に寝やすき蚊遣りかな、お前の心を練り直し辛いこと苦しいことを乗り越えなければ嫁の務めは果たせません。お前が使用人の役割を分担して家の中をきちんとすれば、旦那さんが帰って小言などが出るはずはない」と、優しく諭す。

 利発な静子さんは父親の言ったことを十分に呑み込んで嫁ぎ先へ戻った。翌日はてきぱきと使用人を指揮して、一同が整列して旦那の帰りを待った。

 自動車を下りた旦那は、さあ、今日も家の中の粗(あら)を探して、癇癪を破裂させようと隅々まで見て回るが、玄関の箒も、蜘蛛の巣も、下駄も、座敷の額縁も、床の間の花も完璧で、座布団もちゃんと用意され、おまけに扇風機が涼しげに回っていて、静子さんは冷たいアイスクリームまで差し出した。ケチのつけようがなく、

旦那「おい、これじゃ、俺が怒るところことができんじゃないか」


 


        




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