★あらすじ 大阪住吉町の造り酒屋、山之上松兵衛の一人娘が婚礼を目前に急死した。嘆き悲しむ両親は娘の亡骸を金銀をちりばめた簪、櫛(くし)、笄などで飾り、嫁入支度で揃えた着物や身の回りの品々と一緒に一心寺の墓地の土葬にした。
土葬を手伝った長屋の喜イ公からこの話を耳にしたのが元は武士という触れ込みだが、真の姿は盗賊、それも墓返し、墓暴きの名人の三杉渡だ。墓を掘り返して一儲けしようと、喜イ公を酒、かしわのすき焼きでもてなし、分け前をやるからと言って無理やり墓返しに誘い込む。
その日の真夜中に喜イ公の道案内で一心寺の墓地へ。娘の埋められた所さへ分かれば、後は手慣れたもので、墓をあばき、着物を剥ぎ、金目の物はすべて長屋へ持ち帰った。
すぐに闇ルートで売り払い、しめて百五十両。分け前を五分五分として気前よく喜イ公にやり、娘の紋付の着物だけは足がつくからと、片袖だけ綺麗に折りたたんで懐に入れ、残りは引きちぎり床下に埋め、三杉渡は長屋を去ってどこかへ消えた。
それから三月が経ったある日、山之上家では、娘の百ヵ日法要が盛大に執り行われている。その表に立った六部、これがまた一仕事しようとどこからか舞い戻った三杉渡の姿だ。
内密の話があると松兵衛に取り次がせ、三杉渡は「諸国巡礼の途中、越中立山にはこの世ながらの地獄があると聞き訪れると、看経の声、打ち鳴らす鉦(かね)の音につれて集まり寄りたる亡者どもの中に、ひときわ美麗な娘、美服をまとい生きたる者と見えれど亡霊で、”私は大阪住吉町、山之上松兵衛の娘なりしが、ふた親の涙が火の雨となって降り注ぎ仏果を得ることを得ず浮かばれずこの苦しみ、なにとぞ大阪へ赴かれた折には父母と対面し、 高野山へ五十両の祠堂金を納め下さりますよう。さすれば私も浮かばれましょう”」と、言づけられたと語り、その証しにと懐から娘の着物の片袖を取り出した。
松兵衛は紀三井寺から粉河寺を巡礼し、高野山に上るという六部(三杉渡)に五十両を託し、さらに路用の足しにと五十両を渡した。
六部が、「しからば」と二つの包みを取り上げ、「五十両と五十両、合わして百両。百ヵ日の追善供養〜」と言うと、 ちょうど裏の浄瑠璃のお師匠さんが稽古中で三味線の音が聞こえてきた。
六部はそれに合わせて浄瑠璃の忠臣蔵の六段目を語って、
「♪あと懇ろ(ねんごろ)に弔われよ。さらば、さらば、お 〜さ〜らば、・・・・・♪ 」と、店を出ようとすると、帳場の格子から番頭が首を出し、
番頭 「おい、お六部さん」
六部 「おぉ、番頭か」
番頭 「うまく語る(騙る)な」
桂小南(上方演芸会)
収録:昭和62年
(*一部改作) |
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