「喧嘩長屋」
★あらすじ 長屋でお松さんが帰りの遅い亭主の徳さんを待っていると、
徳さん 「おい、今帰った」
お松 「今時分までどこほっつき歩いてんねん、この甲斐性なし!」
徳さん 「なに!、仕事して帰って来たんに決まっとるやろ。このボケ!」と、一発叩いた。さあ、大変、お松さんはそんじょそこらにいる、柔なおかみさんとはわけが違う。”雀のお松”の異名を取る有名人だ。
お松 「叩きやがったなこの極道野郎、叩け叩きやがれ。いっそのこと殺しやがれ!」
徳さん 「何じゃこのガキャ、ようし望みどおり殺してしもたるわ」、「殺しやがれ!」、「殺したる!」・・・・・で、取っ組み合い寸前だ。長屋の連中はいつものことでこの夫婦喧嘩は驚かないが、「殺せ!」、「殺したる!」はちと穏やかでない。
止めに入ったのが家主で、「これこれ、振り上げた手ぇ下ろしなされ。なんじゃこの騒ぎは」
お松 「どうせまた女遊びなんかしくさりよって遅く帰って来やがって・・・」
徳さん 「おい、誰が女遊びしてるっちゅうねん、仕事で遅そなったちゅうてん。女遊びしようがそんなもん男の甲斐性やないけ」
お松 「なにが男の甲斐性や、わてかて働いてんのや。女遊びするより雌犬のケツでも追いかけてえや!」
徳さん 「何が働いてるや、家賃にも足らんよな端(はした) 金やねえか」
お松 「家賃にも足らん・・・、悔しい~!」と、胸倉に掴みかかった。
家主 「待て待て!、徳さん、こらちょっとお前さんのほうが分が悪いで。家賃にも足らん端金でも稼いで所帯の足しにしようという気持ちを汲んでやらないかんがな
」
徳さん 「放っといてくれ、 うちゃ機嫌よう夫婦(めおと)喧嘩してんのんじゃ。喧嘩の仲裁ちゅうたら五分と五分に裁くもんじゃ、それを最前から聞いてたら嬶(かか)の肩ばかり持ちよって・・・ ははぁ~ん、おのれ俺がいてへん間に、嬶(かか)一膳呼ばれよと思てけつかんな。このドスケベ家主」
家主 「一膳呼ばれる? そんなこと言える顔か?だいたい、お前ら夫婦この長屋に越して来た時には、夜中誰も外に出なんだんやぞ。何でか分かるか? お前とこの嫁はんの顔が恐いさかいやないか。
この嫁はんの顔、一円玉言われてんぞ。これ以上崩しようがないちゅうことや。そんな両替もでけんよな女子(おなご)、一膳どころか銭金付けてもこっちから断っとるわい」と、あまりの言いように、
お松 「両替のでけへん顔、 まあようそんなこと言いなはったなぁ。何やねんな、あんたこそ近所であんたの頭、流行(はや)らん店言われてんのん知りまへんか。儲けが無い」
家主 「お前ら、喧嘩の筋書き作っといて、わしを仲裁に入れて今まで溜まってる家賃踏み倒すつもりやな」
徳さん 「誰が家賃を払わんちゅうてん、何時、誰が言うてん」
家主 「おお、だったら今ここに溜まってる家賃払ろてからぬかせ」
徳さん 「このガキャ、喧嘩の仲裁か家賃の取立てかどっちじゃい。ゴテクサごてくさぬかしてたら、イテコマシたるで」
家主 「イテコマス? おぉ、イテコマシてもらいまひょ。家主と言えば親も同様の頭、店子が手ぇかけれるもんならかけてみぃ」、徳さんが家主のハゲ頭を拳固でポカリ、
家主 「家主に手をかけやがったな!」で、喧嘩が一回り成長してしまった。
店子① 「家主止めに入ってよけいに喧嘩大きなったやないか。・・・お前、家賃溜めてんねやろ、 仲裁に入りな。”よう仲裁に入ってくれた、今まで溜まってる家賃全て帳消しにさ してもらおやないか”と、こないなるで」 、それは美味い話と乗り込んで、
店子② 「まあ、まあ、お腹立ちはごもっとも、わたいに任しとくなはれ。徳さん、お前がいかんがな。 家主さんに手ぇかけたりするやつがあるかいな。ここんとこはわいの顔に免じて「うん」ちゅうて。わいが丸う納めるよって、と
りあえず「うん」ちゅうてな・・・」
徳さん 「家主にペコペコさらしやがって、おのれ、今家主にペコペコ しといて、溜まってる家賃帳消しにしてもらうつもりやな」
店子② 「そ、そ、そんなん思てへんけど家主さん怒んのも無理ないで、お前とこの嫁はん、鬼瓦みたいな顔した雀のお松さん、何ぼ助平オヤジのこの家主でも相手にせえへんがな」
家主 「助平オヤジ? 助平オヤジて誰のこっちゃ? おい助平オヤジて誰のこっちゃ」で、家主はど突いた。
店子② 「痛っ、痛てて・・・ど突きやがったな!」で、さらに喧嘩は発展だ。
外にいた長屋の連中、もうこうなったら大勢で中に入って分けるしかないと一斉に入って行く。するとお松さん、みんなをかいくぐって外へ出て表の戸にペタッと紙を貼った。
「満員につき、もう場所ございません」
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