★あらすじ 散髪道具を下げて得意先を回っている髪結いの磯七。なかなか愛嬌もん、世話好きの人気もん、「磯村屋」なんて役者の屋号みたいに呼ばれたりする。
ある若旦那が大川へ網打ちに行こうと舟で船頭と用意をしていると、橋の上から見つけた磯七がお供をさせてくれと降りてくる。若旦那が、「今日は船頭と二人だけの網打ちで、遊山舟、屋形舟と違うやさかいあかん」と断るが、磯七はなんだかんだ、ごじゃごじゃと言って舟に乗り込んでしまった。
大川に出ても相変わらず喋り続ける磯七に、若旦那「早よ、網打たんかいな」で、磯七が網を打つと見事というか、まぐれなのか大きな鯉がかかった。船頭に手伝ってもらって舟へ引き上げると、磯七が料理すると言い出す。
若旦那「そらあかんわ。船頭はんにまかしとき」、磯七「わたしかて出来ますがな、毎日、刃物持ってまんがな」、若旦那「庖丁と剃刀(かみそり)とは違うねやさかい」だが、磯七は聞かずに鯉を舟縁に置いて、船頭から包丁を借りて、「鯉はな”大名魚”、”まな板に乗った鯉”って言いますやろ、こぉー庖丁でス〜ッとひとつ撫ぜたら、もぉ動きもせん」、だが鯉は動く。また撫ぜてもまた動く。磯七は、「こりゃ旗本か」なんて訳の分からぬことを言っている。それでも三、四辺撫でると動かなくなった。
磯七は得意げに、「もぉ諦めてます。今から辞世を詠みまっせ、”風誘う、花よりもなお”・・・こぉやってな、鱗をシャイシャイと・・・」、若旦那「何やその手つきは」、どう見ても剃刀で髭(ひげ)をあたっているようにしか見えない。若旦那「鯉の髭を剃って、どないすんねん」、磯七「髭を見たらほっとかれんのは癖・・・」、ゴジャゴジャ言ぅてるうちに鯉は尾でポ〜ンと舟縁を叩いて川の中にドボーンと逃げてしまった。
磯七「何が大名魚や、旗本どころやでもないで・・・」、するとさっきの鯉がまた上がって来て顔を出した。喜んだ磯七「若旦那、見てみなはれ、 あれ、妻や子どもに別れのひと言を言い残して”わしゃ改めてまな板に乗ろぉ”ちゅうて上がって来た。偉いやっちゃ、鯉、ここへ飛び込め!舟の中へ飛び込め!」、鯉は顔を上げると、
鯉 「磯はん、今度ぁこっちゃ側も頼んまっせ」
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