「鯉舟」

 
あらすじ 散髪道具を下げて得意先を回っている髪結いの磯七。なかなか愛嬌もん、世話好きの人気もん、「磯村屋」なんて役者の屋号みたいに呼ばれたりする。

 ある若旦那が大川網打ちに行こうと舟で船頭と用意をしていると、橋の上から見つけた磯七がお供をさせてくれと降りてくる。若旦那が、「今日は船頭と二人だけの網打ちで、遊山舟、屋形舟と違うやさかいあかん」と断るが、磯七はなんだかんだ、ごじゃごじゃと言って舟に乗り込んでしまった。

 大川に出ても相変わらず喋り続ける磯七に、若旦那「早よ、網打たんかいな」で、磯七が網を打つと見事というか、まぐれなのか大きながかかった。船頭に手伝ってもらって舟へ引き上げると、磯七が料理すると言い出す。

若旦那「そらあかんわ。船頭はんにまかしとき」、磯七「わたしかて出来ますがな、毎日、刃物持ってまんがな」、若旦那「庖丁と剃刀(かみそり)とは違うねやさかい」だが、磯七は聞かずに鯉を舟縁に置いて、船頭から包丁を借りて、「鯉はな”大名魚”、”まな板に乗った鯉”って言いますやろ、こぉー庖丁でス〜ッとひとつ撫ぜたら、もぉ動きもせん」、だが鯉は動く。また撫ぜてもまた動く。磯七は、「こりゃ旗本か」なんて訳の分からぬことを言っている。それでも三、四辺撫でると動かなくなった。

 磯七は得意げに、「もぉ諦めてます。今から辞世を詠みまっせ、”風誘う、花よりもなお”・・・こぉやってな、鱗をシャイシャイと・・・」、若旦那「何やその手つきは」、どう見ても剃刀で髭(ひげ)をあたっているようにしか見えない。若旦那「鯉の髭を剃って、どないすんねん」、磯七「髭を見たらほっとかれんのは癖・・・」、ゴジャゴジャ言ぅてるうちに鯉は尾でポ〜ンと舟縁を叩いて川の中にドボーンと逃げてしまった。

 磯七「何が大名魚や、旗本どころやでもないで・・・」、するとさっきの鯉がまた上がって来て顔を出した。喜んだ磯七「若旦那、見てみなはれ、 あれ、妻や子どもに別れのひと言を言い残して”わしゃ改めてまな板に乗ろぉ”ちゅうて上がって来た。偉いやっちゃ、鯉、ここへ飛び込め!舟の中へ飛び込め!」、鯉は顔を上げると、

鯉 「磯はん、今度ぁこっちゃ側も頼んまっせ」


  
   




桂米朝の『鯉舟【YouTube】





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