「米揚げ笊」

 
あらすじ 甚兵衛さんから天満の源蔵町笊屋(いかきや)の売り子の仕事を勧められた男。紹介状を持って、丼池から北へ、土佐堀川へ突き当り右へ、栴檀木橋は渡らずに浪花橋を渡って、天満の源蔵町の笊屋重兵衛の店へやって来た。

 重兵衛から「・・・大豆(おおまめ)、中豆(ちゅうまめ)、小豆(こまめ)に米揚げ笊を重ねて、上からポンポンと叩いて、叩いてもつぶれるようなもんと、品物が違いますと言って丈夫な笊と思わせ、、実は竹にふいている粉を落とすのや・・・」など売るコツを教わる。

 笊を持って往来へ売りに出た男だが、なかなか売り声が出ない。やっと小さな声で「いか・・・いか・・・き」、「ちょっとイワシ屋さん」と間違われたりする。そのうちの段々と慣れてきて、「大豆、中豆、小豆に米を揚げる笊はどうでおます・・・」なんて売り声も板について、やって来たのが米相場が立つ堂島界隈

 強気の相場師は上がる、昇るを喜ぶ。笊屋の男は、大強気の店の前で、「・・・米を揚げる米揚げ笊・・・」、これを聞いた店の主人「こりゃゲンがええ、呼んで買うてやれ」で、笊屋は「暖簾は頭で上げて入る」と店に入った。

主人 「嬉しい奴やな。みな買うてやるぞ」

笊屋 「・・・跳び上がるほど嬉しい」

主人 「・・・もう財布ごとやるぞ」

笊屋 「神棚に上げて、拝み上げます」

主人 「嬉しい奴や、ひいきにしたろ。お前兄弟はあるんか」

笊屋 「姉が上町の上汐町の上田屋宇右衛門という紙屋の上(かみ)の女中を務めとりまっせ」

主人 「・・・須磨の別荘、お前にやろ、兄はおるんか」

笊屋 「淀川の上の京都におりまんねん」

主人 「娘やろ、貰うたってくれ。京はどこや」

笊屋 「高瀬のずーっと上だんねん」

主人 「もう、うちのかかあやるわ、ほんま、嬉しい奴や 兄貴はどんな男や」

笊屋 「へえ、わたいと違うて背の高い鼻の高い、威高い気高い男であます」

主人 「うーん、わいもやるわ、兄から便りはあるか」

笊屋 「商売を広げたいので宅替えをしたいてなことを」

主人 「そや、商いは場所が肝心や。何処へ宅替えすると」

笊屋 「今居てるところがちょっと上過ぎるので、たらたらと二、三町下がったところに・・・」

主人 「こら!今何ぬかした。今やったもんみな返せ」

笊屋 「お気に障ったんならこのとおり頭を下げて謝ります」

主人 「下げなというのや。もうそれが気に入らん。出ていけ!」

番頭 「いいえ、旦さん、そら笊屋の方がもっともでっせ。相場というものは頂上が知れんもんで、今笊屋が言うたように、たらたらと二、三町下がったところで、ああ、あれが天井やったと気がついて、そこで初めて手が合うて、どんどんとお儲けになります。旦さんみたいに、上がる昇るの一点張りでは、高つぶれにつぶれてしまいますわ。なあ、笊屋はん」

笊屋 「いや、阿保らしい。叩いてもつぶれるような笊と、品物が違います」


 

  


桂米朝の『米揚げ笊【YouTube】



船場・丼池ストリート 《地図



堂島米市場跡記念碑
堂島」(「錦絵にみる大阪の風景」)



堂島米市場(摂津名所図会)



栴檀木橋の栴檀の模様



難波橋(浪花橋)
天満の源蔵町は橋を渡った西天満一丁目あたり。






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